岩田
伊藤さんはどうやって
このプロジェクトに巻き込まれたんですか?
伊藤
僕も途中段階のゲームを見せられて、
「これを3ヵ月で仕上げます」って言われて。
一同
(笑)
伊藤
今回の『ガールズモード』は、Wi-Fi対応になっていますが、
これまでにない特殊なことをやっていますので、
大胆なシステム改造が必要になったんです。
そのお手伝いをするために、わたしが呼ばれたんだと思います。
山上
そもそも伊藤さんを引き込んだのはワケがあるんです。
田島さんと入れ替わるように服部さんがやってきたものの、
「わたし服に自信がないから、怖い」って言うんです。
「じゃあ、ファッションに自信がありそうなヤツを捜そう」って、
フロアを見渡すと、目にとまったのが伊藤さんだったんです。
伊藤さんは別のグループのスタッフだったんですが、
マネージャーに頼み込んでお借りすることにしました。
服部
Wi-Fiなどの技術面に強くて、
しかもおしゃれなので、一石二鳥だったんですね(笑)。
岩田
でも、いくら伊藤さんがおしゃれだとは言っても、
男性と女性のファッションってやっぱり違うものですよね?
伊藤
誤解のないように言っておくと、
みなさんは買いかぶってくれたのかもしれないですけど、
そもそもわたしは、男性のファッションに詳しいほうではないんです。
それが女性のファッションとなるとなおさらですよね。
だからこのプロジェクトに参加することが決まったとき、
近所のコンビニに走って、女性ファッション雑誌を大量に買い集めました。
自分の視野を広げるために・・・
岩田
それって、どう見ても怪しいヤツじゃないですか!
一同
(笑)
伊藤
ちょっと恥ずかしかったです(笑)。
でも、自分が思い描いているファッション像というのは、
たぶん偏りがあると思うんです。
そこで、幅広いファッションの雑誌を読み比べたり、
同僚の女性社員の意見も聞いたりして、
バランス感覚を養うようにしました。
岩田
で、3ヵ月で仕上げてねと言われたソフトを触ってみて、
どんなことを感じましたか?
伊藤
わたしが最初に感じた印象は、素材はそろっているんですけど、
ルールのないカードゲームという感じだったんです。
岩田
カードは1万種類もあるけどね(笑)。
伊藤
だから、お客さんが途方に暮れるかなあと思いました。
コーディネートすると言っても、組み合わせは膨大な数になりますし。
服部
シンソフィアさんが、ファッションアイテムの
組み合わせの数を計算してくれたことがあるんです。
結果は、「じょ(※のぎへんに“予”)」を超えるかもしれない、って。
岩田
「じょ」って、億、兆、京、垓の次に来る大数ですよね。
服部
25桁の数字になって、文字にすると・・・
「1,000,000,000,000,000,000,000,000」。
もうとんでもないですよね(笑)。
伊藤
そこで、服部さんがチュートリアル的なアイデアを持っていたので、
最初に使えるアイテム数を制限しましょうということになりました。
山上
服部さんからそのアイデアを聞いたとき、
それが実現できれば、オレにもできるかもと思えたんですね。
岩田
具体的にはどんなチュートリアルになってるんですか?
服部
プレイヤーはまず「ルミナ」というお店に
見習い店員として入ることになります。
自分の把握できるくらいのアイテム数が置かれていて、
不慣れな方でもこなしていけるような指示から始められるようになっています。
これによってプレイヤーのファッションセンスのレベルを
ある程度判定できるようになっていて、
知識のある方はとにかくほめられて、どんどん次のステップに行けますし、
あまりファッションに詳しくない人は、ミスをしても、
ていねいなアドバイスを受けられるようにしました。
山上
そういったことを、シンソフィアさんのところに行って、
服部さんがホワイトボードにフロー図を書きながら説明してくれたんです。
服部
開発会社の方も同意してくださって、
とても良いものができました。
山上
その試作品を実際に遊んでみると、
そのとき初めて、自分でも買いたい商品になったと感じたんです。
「田島さんがおもしろいと言い続けてきたことが、
これでようやくわかった気がする!」って。
岩田
山上さんはおもしろさがわかるまで、
1年半もかかってしまったと(笑)。
山上
僕にもわかるんだから、服が好きな女の子だったら、
間違いなくこのおもしろさはわかると思いました。
ただ、僕のような人間がやると「ルミナ」はとても時間がかかるんですけど、
それでも「ルミナ」が終わる頃には、ちゃんとファッションのイロハ、
色のコーディネートはこうすべきだとか、
柄ものはどういうふうに合わせるべきかとか、
基本中の基本の部分はちゃんとわかるようになって、
僕でもちゃんと服が選べるようになるんですね。
田島
そこで「新しいお店をあなたに任せるわ」って言われ、
晴れて店長になれるんです。
山上
ただ、課題も残っていて、
服をただ売って収入を得るというだけでは、飽きちゃう人もいるだろうと。
岩田
繰り返して遊んでいただくためには、
別のおもしろさが必要になるんですね。
山上
そこで色々なイベントが起こるようにしています。
田島
実際に洋服屋さんとかで働いていて、
お客さんからお礼を言われるとうれしいと思ったんですね。
たとえば「先週買った服でデートに行ったら、
彼氏にほめられたの。ありがとう」とか。
山上
そこで、このゲームのなかでも似たようなことが起こるようにしました。
ときにはお客さんから「今度○○へ一緒に行かない?」って誘われて、
そこに一緒に行ったりとか。
そのときは自分もおしゃれをして行くんですね。
服部
お出かけ先では記念写真を撮って、保存もできます。
だから、たとえばコンサートに行くときは、
パンクファッション系で決めてみようかなとか、
そのシチュエーションに合ったファッションに着替えて、
お出かけが楽しめるようになっています。
しかも、自分のキャラメイクもできるようになってますので、
ヘアスタイルから、ヘアカラー、それにメッシュも入れることができたり、
アレンジヘアとかもできたりとか。
もちろんお化粧もできますし、自分の眉毛を変えたりとか、
細かい設定ができるようになっています。
山上
さらに、ファッションコンテストが開かれて、
優勝すると、「もっと上をめざさない?」って誘われて。
そのファッションショーも、たしか4段階あって・・・。
服部
いえ、もっと多いです(笑)。
ファッションショーのほかにも、
雑誌の取材を受けて、自分で流行を発信するようなこともできたりとか、
コラボレーションと言って、ブランドのバイヤーの人と一緒に、
自分だけのアイテムを色を組み合わせてつくることができたり、
いろんなイベントが起こるようになっています。
岩田
伊藤さんが専門のネットワーク技術を使って
新しいことができるようになったんでしょう?
伊藤
今回はWi-Fiを使って、自分のお店を出せるようにしたんです。
出したお店は、自分がWi-Fiにつなげていなくても、
ほかのWi-Fiにつないでいる方には見えていて、買い物が出来るんです。
服部
自分のお店のなかにマネキンを飾っておくと、
それを見てお客さんが来てくれたりだとか。
岩田
つまり仮想ショッピングモールがあって、
そこに洋服屋さんがたくさん並ぶんですね。
でも仮の話ですけど・・・、大きく出ようかな(笑)。
このソフトが仮に100万本売れて、40万件のお店が開いたとしたら、
そのすべての店をチェックするのは不可能ですよね。
伊藤
このソフトでは、お店がズラーッと並んでいるのではなく、
タウンというのがまずひとくくりとしてあって、
タウンのなかにビルがいくつか建ってます。
で、ビルのなかにはフロアがあるので、
普通のファッションビルに行くような感覚で
買い物ができるようになっています。
岩田
どこに自分のお店が出るのかは偶然決まるんですか?
山上
はい。でも、フレンドコード(※2)は交換しなくてもいいんです。
タウンとビルの名前とフロアがわかれば、そのお店に行けるんですね。
だから、「わたしのお店はここにあります♪」って
メールやメモで伝えるだけで、友だちが買い物に来てくれるんです。
服部
しかも、「あそこのお店に素敵なコーデがある」とか、
口コミで見知らぬお客さんが来てくれることもあるんじゃないかと。
伊藤
すれちがい通信(※3)を使ってチラシを配れば、
見知らぬお客さんに来てもらうこともできるようになります。
また、常にバーゲン価格でアイテムが安く手に入りますから、
ぜひいろいろなお店めぐりをしてみてください。
全国の皆さんのいろいろな着こなしが楽しめると思いますよ。
※2
フレンドコード=ニンテンドーWi-Fiコネクションを利用するときに、ソフトごとに自動的に割り振られるコード。友だちに教えることで、通信プレイが可能になる。
※3
すれちがい通信=電源を入れたままのDSを持ち歩くことで、すれ違った見知らぬ人と、データのやりとりができる通信システムのこと。
服部
ゲームの進め方によって、お店に置くことができるアイテムも異なるので、
「会ったことないけど、○○さんのお店、サイコー!
だって、わたしの好きなブランドの品揃えがすごいんだもん」
ということも起こると思うんですね。
山上
しかも、現実のカレンダーと連動していますので、
季節によって仕入れができる服が違うんです。
服部
自分の気に入った服をお客さんにおすすめしても、
「いまの季節はコートなんて暑くて着られないわ」
なんて言われたりもしますし。
服部
Wi-Fiや、すれちがい通信以外にも
ワイヤレス通信ができるようになっていて、
目の前にいる友だちと、お店屋さんごっこをしたり、
コンテストができたりします。
岩田
超絶豪華なお店屋さんごっこなんですね。
考えられることは全部入れたって感じですか?
山上
予想よりも時間がかかってしまいましたので、
とことんやろうという感じでした。
海の向こうに渡ろうとする田島さんからも、
「わたしが考えたことは全部入れてもらえますよね?」
って、渡米前に念押しされたくらいですから。
岩田
つまり、最初から欲張り仕様だったんですね(笑)。
開発に時間がかかった理由がよくわかりました。