N.O.M:石垣教授はどのような研究をされているのでしょうか。
石垣:私は大学で「スポーツビジョン」注1というものを研究しています。これはスポーツ視覚学とも呼ばれていて、スポーツの上達と「眼の力」の関係を研究する学問です。そのスポーツビジョンの一分野として眼の力をトレーニングする「ビジュアルトレーニング」があります。この「ビジュアルトレーニング」を、DSで行えるようにしたソフトが「見る力を実践で鍛える DS眼力トレーニング」というわけです。
注1:スポーツビジョンの歴史としては、1978年頃のアメリカで、眼に関する研究機関であるAOA(American Optometric Association)内に初めて「スポーツビジョンセクション」というものが誕生しました。日本では1988年に同じ趣旨の団体「スポーツビジョン研究会」が発足しています。
N.O.M: 石垣教授のおっしゃる“眼の力”とはどういうものなのでしょうか? 一般的に知られている視力とは異なるものですか?
石垣:みなさんは健康診断などで視力検査を経験したことがあると思うのですが、あれで何を測っているかというと、カメラで例えるならフォーカスなんです。つまり、どの程度まで焦点があっているかを調べる検査です。フォーカスの程度を1.0や0.7などの数値で表したものが視力値と呼ばれています。つまり視力というのは、静止した小さなものの形を見分ける力なんですね。
ところが、実際に生活する上では視力以外にも様々な眼の力を使っています。広い視野で一度に多くの物を確認したり、動く物を正しく認知したりするなど、いわゆる“見る力”です。別の言い方をすれば、眼の使い方の正確性や敏捷性といえるでしょう。そういった眼の力をこのソフトでは「眼力(=メヂカラ)」と呼んでいまして、トレーニングによって鍛えることを目的としているわけです。
N.O.M:「眼力」についてもう少し詳しく説明していただけますか?
石垣:眼を使う際、実際には複数の眼力が同時に働いています。しかし、それらをあえて特徴的な5つの力に細分化すると、次のようになります。それぞれの眼力を鍛えることによって期待される、日常生活での効用も合わせて説明しますね。
ただ、先ほども申し上げましたとおり、眼を使う際には上記の眼力が複数同時に働いています。個々の要素だけに注目するのではなく、あくまでも大切なのは眼力全般を鍛えることです。これはよく例えて言うのですが眼力は体力と同じなんですよ。「あなたは体力がありますか?」と聞かれているときに何が問われているかというと人間の総合的な体力だと思うんです。ところがその要素としてはスタミナもあるし、筋力もあるし、それから柔軟性も大切です。私たちが体力と呼ぶのはそのすべてを合わせたものだと思うんですね。だから眼の持っている総合的な“見る力”、これを「眼力」だと思ってください。
N.O.M:眼力を鍛えると実際にどの辺りが発達するのでしょうか?
石垣:眼を動かす筋肉(眼筋)が鍛えられることよりも、むしろそれをコントロールする脳が鍛えられるといっていいでしょう。パソコンでいうならソフトウェアの精度や処理速度が上がる感じです。
余談ですが、お酒を飲むと眼が据わってきますよね? 視線(眼球)が上下左右へ動きにくくなる。あれはアルコールが脳を一時的にマヒさせることによって起こる現象なんですよ。
N.O.M:眼力は普通の生活をしていて鍛えられていくものなのですか。
石垣:一般的な生活上では高度に鍛えられるという部分ではないと思います。普通に発達していって、加齢と共に機能が低下していきます。視力は眼鏡などで矯正できますが、眼力はそのような訳にはいきません。ただし、刺激を与えることで眼力は鍛えられます。一度低下すると矯正以外の方法では回復が難しい視力と違って、眼力はトレーナビリティ、すなわちトレーニングすることで能力アップする可能性は誰にでもあると思っています。年齢によって効果に差はありますが、どの年代の方に試していただいてもプラスに働くはずです。
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