1.DS本体をコインロッカーに
岩田
「すれちがい通信中継所」のサービスが
8月6日からはじまりましたが、
日本では、このサービスを実施することを
事前にお知らせできておらず、
突然はじまったように感じた方も
少なくないと思っています。
すでに日本では、200万人以上のお客様が
このサービスを利用されているのですが、
このサービスがどのように実現されたか、
ということに関しては、
ちょっと興味深い話が訊けそうですので、
急きょ、このプロジェクトにかかわったみなさんに
お集まりいただきました。
それでは、最初に自己紹介をしてください。
まず、紺野さん、お願いします。
紺野
情報開発本部の紺野です。
DSの『nintendogs』(※1)、
それに3DSの『nintendogs + cats』(※2)などの
プロデューサーを担当しまして、
ニンテンドー3DSについても
総合的なまとめ役を担当しています。
今回の「すれちがい通信中継所」についても
深くかかわることになりました。
岩田
今回のプロジェクトでは、
紺野さんはどんな役割でしたか?
紺野
ひとことで言いますと“言い出しっぺのひとり”です。
日本でもそうですが、とくにアメリカや欧州において、
より多くの人たちに「すれちがい通信」を
楽しんでいただきたいと思いまして、
このプロジェクトを進めてもらうことにしました。
山崎
ネットワーク開発運用部の山崎です。
ここ数年は、3DSとWii Uで
通信周りのシステムを担当してきました。
今回はその一環で、「すれちがい通信中継所」の、
サーバー側の開発チームのとりまとめを担当しました。
岩田
今回はこのプロジェクトの
リーダー的な役割だったんですね。
山崎
そうです。
岩田
山崎さんは
「いつの間に通信」(※3)の仕組みをつくるうえでも、
とりまとめを担当していましたよね。
山崎
はい。
河原
ネットワーク開発運用部の河原です。
わたしはこれまでに、
Wiiの『みんなのニンテンドーチャンネル』(※4)や
『Wiiの間』(※5)のように
映像配信系のサービスにかかわってきました。
それから「いつの間に通信」の
サーバー側の担当をしてきました。
今回の「すれちがい通信中継所」では
「中継所」そのものの基盤づくり、
いわゆる“インフラ”を担当しました。
岩田
河原さんはどういう経緯で、
今回のプロジェクトに巻き込まれたんですか?
河原
その話をしようとすると、
微妙に長くなってしまうんですけど・・・。
岩田
はい、いいですよ。
河原
隣に座っている井上さんと僕は、
3年くらい同じチームを組んでいるんですが、
もともとこのチームを組んだ目的は、
今回のプロジェクトのためだったんです。
岩田
3年前って、3DSが発売前で、
まだ開発していた時ですよね。
河原
そうです。
じつは3DSの発売前から
「中継所」の構想があったのですが、
気がついたときには、なぜか「いつの間に通信」の
サーバーの開発をしていました(笑)。
岩田
いつの間にか「いつの間に通信」(笑)。
一同
(笑)
河原
で、今年の春に、
「中継所」を本格的にやることになりまして、
ついに3年越しの悲願が叶ったという感じです。
岩田
では、同じく3年前から
同じチームだった井上さん、お願いします。
井上
ネットワーク開発運用部の井上です。
「すれちがい通信中継所」では
サーバー側のメインプログラマーを担当し、
クライアント(3DS)側担当の松岡さんと
中継処理の仕組みを検討しました。
わたしも入社以降、
『みんなのニンテンドーチャンネル』と、
3DSとWii Uの「いつの間に通信」の
サーバー開発と運用を主に担当してきました。
それで、河原さんが言ったように、
今回「すれちがい通信中継所」を
3年越しにリリースできて
たいへんうれしく思っています。
松岡
環境開発部の松岡です。
わたしはもともと、
3DSとWii Uでのローカルプレイ、
ダウンロードプレイなどの本体同士で行う
通信のSDK(※6)開発を担当していましたが、
今年の4月半ばに突然巻き込まれてしまいました。
岩田
じゃあ、3年越しの人と、
突然巻き込まれた人が混ざって、
このプロジェクトをやったわけですね。
松岡
はい。ということで、
今回は3DS本体側のプログラマーとして、
技術的なとりまとめを担当しました。
岩田
さて、「中継所」の話に入る前に・・・
そもそも「すれちがい通信」は
3DSからではなく、
DSですでに実現していましたよね。
紺野
そうですね。
『nintendogs』の時がはじめてでしたから。
岩田
もっとさかのぼると、
ゲームボーイアドバンスの時代から、
「こういうことができたらいいよね」ということで、
「すれちがい通信」の元になる実験をしていましたけど、
どうして『nintendogs』の時に
「すれちがい通信」を活用しようと考えたんですか?
紺野
それはよく覚えているんですけど、
宮本(茂)さんがあの当時、犬を飼いはじめたんです。
岩田
はい、そうでしたね。
紺野
それで、犬を連れて散歩に行くと、
公園のような場所に犬好き同士が集まって、
会話をするのがとても楽しい、
という話をしていたんですね。
で、「そのように身近なコミュニティのなかで生まれる
ゆるいつながりのようなものが、
DSでも実現できたらおもしろいね」
ということが、そもそもの発端になったと思います。
岩田
それで、DSの時は
『nintendogs』を持った人同士がすれちがうと、
お互いの飼い犬が遊びに来るようになり、
それが「すごくおもしろい」と言ってくださる
お客さんもいらっしゃいましたけど、
一方で、DS時代の「すれちがい通信」は
3DSと比べると、かなり制約が多かったですね。
紺野
そうなんです。
『nintendogs』をDSで起動した状態にしていないと
「すれちがい通信」ができませんでしたから。
岩田
だから、『nintendogs』で
ずっと遊んでいる方でも、
外出するときに別のソフトを遊んでいると、
すれちがうチャンスはゼロだったんですよね。
紺野
そうですね。
岩田
一方で、DSの時代にも、
「すれちがい通信中継所」を試しましたよね。
紺野
はい。ちょうど8年前でした。
岩田
紺野さん以外に
DS時代の「中継所」にかかわっていた人は、
このなかにはいませんか?
山崎
僕がかかわっていました。
岩田
あ、山崎さんが?
山崎
はい。あの時はまず
「すれちがい通信」用のDSを用意しまして。
岩田
あの時の中継器は
DSそのものだったんですよね。
山崎
最初は「中継所」というものを展開しても
どの程度「すれちがい通信」が成立するのか、
本当に意味があるのかどうかよくわからなくて、
検証のために駅のコインロッカーに入れて
実験したりしていました。
岩田
でも、DS本体を
コインロッカーに入れるわけですから、
電池切れの心配がありますよね?
山崎
そこは、市販の電池式充電器で対応しました。
単三乾電池を3本入れて、それをDSにつないで、
なんとか1日もたせようと(笑)。
一同
(笑)
岩田
当時は、本当に原始的なやりかたで、
手探りで実験している感じでしたよね。