社長が訊く
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社長が訊く『ポケモン立体図鑑BW』

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社長が訊く『ポケモン立体図鑑BW』

目次

1. 「3分でダウンロードできるように」

岩田

今日はまずはじめに、ニンテンドー3DSに向けて
『ニンテンドーeショップ』(※1)を通じて無料配信している
『ポケモン立体図鑑BW』(※2)について、
お話をお訊きしたいと思い、
株式会社ポケモン(※3)の本社の会議室をお借りして、
開発をしたみなさんに集まっていただきました。
よろしくお願いいたします。

一同

よろしくお願いいたします。

※1
『ニンテンドーeショップ』=インターネットを通じて、いろいろなソフトをダウンロードしたり、CMやソフト紹介などの映像を楽しむことができる。
※2
『ポケモン立体図鑑BW』=2011年6月17日より、『ニンテンドーeショップ』で配信が開始されたニンテンドー3DSダウンロードソフト。『ポケットモンスターブラック・ホワイト』で新たに登場したポケモンを好きな角度から立体で鑑賞することができ、無料でダウンロードできる。
※3
株式会社ポケモン=ポケモンのブランドマネジメントを行うほか、全国6カ所のポケモンセンターも運営する。2000年設立。本社・東京。

岩田

それではまず最初に、
このソフトの開発でそれぞれ何を担当されたのか、
というところからお訊きしたいと思います。
石原さんからお願いします。

石原

はい。・・・もともと僕には
「こんなソフトをつくりたいな」という、
大きなイメージがありまして・・・。

岩田

その石原さんの提案で、
このプロジェクトがはじまったのでしたね。

石原

そうですね。
で、今回は隅っこにあるような、
とても細かい部分に対して
「こうしたい」と意見を言いつつも、
大雑把に任せるところもあったりして、
わりと両方の幅広い立ち位置でかかわりました。

岩田

そういった、ダイナミックレンジの広い、
石原さんからのリクエストを
しっかり受け止めながらつくったのが
クリーチャーズ(※4)のみなさんです。
小笠原さんから、自己紹介をお願いします。

※4
株式会社クリーチャーズ=『ポケモンレンジャー』シリーズ(DS)や『ポケパークWii ~ピカチュウの大冒険~』(Wii)などのゲームソフトのほか、ポケモンカードなどを制作する開発会社。本社・東京。

小笠原

プログラマーの小笠原です。
今回は全体の方針を決める役割のほか、
描画関係のプログラムを書きました。

竹内

デザイナーの竹内です。
今回は、主にポケモンの3D部分の描画を
小笠原といっしょに担当しました。
また、モデリングやモーションデータをつくっている
別チームの人たちに対して、
「このような仕様でつくってほしい」と依頼して、
そこから上がってくるデータを受け取って、
ニンテンドー3DSで動くように調整する仕事をしました。

折本

小笠原のもとで、
プログラムを書く仕事をしていました折本です。
今回のソフトでいちばんメインになった仕事は、
現実世界のなかでポケモンの写真を撮ることができる
AR(※5)に関するプログラムで、
ほかにもUI(ユーザーインターフェイス)や
画像効果のエフェクトなど、細かいところも担当しました。

※5
AR=Augmented Reality(拡張現実)の略。現実の映像に仮想の情報を重ね合わせる技術。

岩田

折本さんはARのことを
かなり前から研究されていましたよね。
かなり前になりますが、ニンテンドーDSi時代に
PCで実験していたのを見せていただいたことがありましたから。

折本

あ、はい。

岩田

先ほど石原さんの「こんなソフトをつくりたい」という想いから
今回の開発がはじまったという話でしたけど、
石原さんの頭のなかには
まず最初にどんなイメージがあったんですか?

石原

去年、 『ポケットモンスターブラック・ホワイト』(※6)が出て、
今年に入ってニンテンドー3DSが発売されましたが、
『ポケットモンスターブラック・ホワイト』で登場した
最新のポケモンを、3DSの新しい能力を全部使って
楽しめるものがほしいと考えたんです。
そこから、どのような商品にするかということに関しては、
ものすごくたくさんの試行錯誤があったのですが、
最終的に、今回のポケモン立体図鑑のようなかたちに落ち着きました。

岩田

そもそものキッカケは
「『ポケットモンスターブラック・ホワイト』の新しいポケモンを
3DS上でうまく表現したい」ということだったんですね。

石原

そうです。それがいちばんのキッカケでした。
そこに、「いつの間に通信」(※7)とか
いろんなかたちでデータを配信できる可能性を模索しながら
つくりはじめた、という感じでした。

※6
『ポケットモンスターブラック・ホワイト』=2010年9月に、ニンテンドーDS用ソフトとして発売された、シリーズ最新作。
※7
「いつの間に通信」=ニンテンドー3DSが、インターネット無線アクセスポイントを探して自動的に通信を行い、さまざまな情報やコンテンツを受信する機能。

岩田

石原さんから、そのような
大まかなリクエストを受け取って、
小笠原さんはどのようなことを考えましたか?

小笠原

まず、本をつくろうと思いました。
ちょうどデジタルブックが話題になりはじめている頃で、
ポケモン図鑑のようなものを、紙ではなく、
ゲーム機でどこまで再現できるのか、と考えたんです。

岩田

でも、紙でできた本と、デジタルのゲーム機を比べると、
それぞれメリット、デメリットがありますよね。

小笠原

そうです。
3DSの液晶画面と比べて、本のほうがサイズが大きくて
見やすいというメリットがありますけど、
分厚い図鑑を持ち運ぶにはちょっと大変だったりしますよね。
でも、3DSのソフトなら、どんなに分厚い内容になっても
コンパクトに収まるというメリットがあると思いました。

石原

だから、3DSの内蔵ソフトにしようと。
そうすれば、3DSに『ポケットモンスターブラック・ホワイト』をさしていて、
「このポケモンは何だっけ?」というときに、
『ポケモン立体図鑑BW』を起動させれば、
ひとつの機械のなかで、すぐに探しにいけると思ったんです。

小笠原

内蔵ソフトだと、必要なときに
すぐに立ち上げることができますしね。

石原

だから、3DSを買ったときから
このソフトが内蔵されている状態が好ましいと思って、
最初の頃に僕は、岩田さんに対して
「3DSにプリインストールしてほしい!」と
お願いしたこともありましたよね。

岩田

はい(笑)。

石原

そう言いたくなるくらい、
どうやってこのソフトをお客さんに配るのか、
試行錯誤をしたんです。
もちろん、『ポケモン立体図鑑BW』のすべてを
ゲームカードに入れてしまう方法もあって、
そうすれば容量を気にしなくてもよかったんですが、
そうするとスロットを埋めてしまって、
「じゃあ『ポケットモンスターブラック・ホワイト』をどこにさすんだ?」
ということになってしまうんです。

岩田

そうなってしまうと、
「このポケモンは何だっけ?」というときに
カードをさし直さないといけないことになって、
ちょっと面倒になりますね。

小笠原

そうなんです。
そこで、『ニンテンドーeショップ』を使って
配信することにしたんですが、
石原さんから最初に来たオーダーが、
「3分でダウンロードできるようにしてくれ」
という話だったんです。

岩田

それは無茶です(笑)。

小笠原

そうなんですよ(笑)。

岩田

どう考えても、『ポケットモンスターブラック・ホワイト』に登場する
153匹のポケモンすべてが入った図鑑を、
3分でダウンロードする方法はありませんよね。

小笠原

そうです。
そこがいちばん大きな問題でした。
そこで考えたのが、「いつの間に通信」を使おうと。
まず最初にソフトをダウンロードすると、
16匹のポケモンが入っていて、
残りのポケモンは、「いつの間に通信」で
毎日のようにダウンロードする仕組みを考えたんです。

岩田

それで、1日あたりおよそ3匹のポケモンが、
毎日降ってくるような仕組みになった、というわけですね。

小笠原

そうです。しかも、人によって、
異なるポケモンが降ってくるようにしました。

岩田

実際に配信をはじめてみると、
毎日のように3DSを開いて「今日は何が来た?」という会話が
お客さんのなかに生まれてる感じがありますよね。

竹内

ええ。だから、毎日一喜一憂できるんです。
お気に入りのポケモンが降ってくると、うれしいですし、
そうじゃないポケモンだと、ガッカリしたりして(笑)。

岩田

なかなかお気に入りが来ないときは、
どこか切ないんですよね・・・。

竹内

そうなんです(笑)。

石原

しかも、「いつの間に通信」で
153匹すべてのポケモンが降ってくるわけじゃないんです。
100匹ぐらいを過ぎたあたりから、
ただ待っているだけでは
すべてのポケモンが降って来ないんです。

岩田

降ってこないポケモンは人によって違うんですか?

石原

違います。
自分にはバオップが来たのに、
ヒヤップが来ないとか、それぞれ違うんです。

岩田

そんなときは、友だちと交換すればいいんですね。

竹内

いえ、今回は“交換”ではなく、“コピー”なんです。

岩田

ああ、そうか。
通常の『ポケモン』なら、“交換”になりますけど、
今回のソフトは『図鑑』なので、“コピー”するんですね。

竹内

はい、そうです。

小笠原

だからどんどんコピーしてほしいんです。
ダウンロードの代わりに。

石原

するといいこともあるんです。
友だちからコピーしてもらったポケモンだと、
アニメーションを止めるボタンが追加されたりとか
ちょっとした違いがあります。

岩田

人からもらったもののほうに
優位性があるというのは、
いかにも『ポケモン』らしい仕掛けですね。

石原

ええ、そこはやっぱり、『ポケモン』ですから。