3. “王道RPG”とは?
岩田
今回、完全新作の王道RPGということで、
最初に設定や世界観はないので、
途中で迷走しかかったり、
悩んだりしたのではないかと想像しますけれど、
どうでしたか?
浅野
そうですね・・・。
でも今回、迷っているさなかで、
林さんとのご縁ができたので、シナリオ部分に関しては
そこからの迷いはなかったように感じます。
林
・・・いや、けっこう迷いましたよ?(笑)
浅野
あ、けっこう迷ってた?(笑)
岩田
やっぱり当事者は迷いますよね。
悩みのないクリエイティブはない、と思いますから。
どんなところから迷いましたか?
林
はじめはゴール地点もわからない状態でしたので、
「僕が遊んできたRPGはどうだっただろう?」
「RPGにふさわしい王道ストーリーとはどんなものだろう?」
というところから考えはじめました。
岩田
“王道RPG”というキーワードって、
じつはあまり具体的に語られていないんですよね。
林
はい。フワッとしたイメージしかなくて。
岩田
でも、人は王道を求めるんですよね。
じゃあ、いざ「王道って何?」と問えば、
10人に聞いたら10人違うことを
言いかねない感じさえします。
林さんは“王道RPG”をどういうものだと考えていますか?
林
はい。僕の中では、
世界観をきちっとつくることだと思いました。
キャラクターのドラマは、現代でも通用するようなものでないと
感情移入はできないので、あまり変わらないと思うんです。
であれば、お客さんに王道とイメージしてもらうには、
やはり“世界観”だと思うんです。
岩田
現代と違う世界だけれど、一定の秩序があって、
その中で何か感動的なことが起こる世界、
なんでしょうかね。
林
はい。どこか素朴で、
なつかしさを感じるような世界観でしょうか。
素朴でありながらも、歴史がある世界で
しっかり生きている人たちとして
キャラクターづくりをしてきました。
だから僕の中でキャラクターたちはどんどん、
ストイックになっていって、
どのキャラクターも確固たる信念をもって行動しています。
それが王道の正解かどうかは、わからないですけど・・・。
岩田
世界観で感じられる“なつかしさ”とは、
どこで生まれるんでしょうね?
林
うーん、どこなんでしょう・・・?
はっきりと言葉にはできないですけど、
僕が子供のころにプレイした
RPGと同じ空気感、でしょうか。
岩田
同じ気持ちになれるから、
なつかしいのかもしれませんね。
でも、きっとそっくり同じものをいま味わっても、
当時と同じ気持ちにはなれないですよね。
浅野さんは、なつかしさの正体について、
考えたことはありますか?
浅野
なつかしさの正体は、
原体験とのリンクだと思います。
自分が『FF3』『FF4』のリメイクを担当したときも、
プレイヤーの方の記憶に強く残っていることを、
実際、ソフトで確認したら、違うんですよね。
岩田
記憶って、けっこう書き変わっていますからね。
浅野
はい。だから実際のものから、
記憶がどのように醸造されているかを意識して、
それをいまの形にしていくように考えていました。
岩田
では今回、おふたりがRPGをつくるうえで、
どんなことをポイントにされていましたか?
浅野
“バトル”“シナリオ”“成長”。
RPGとはこの3本柱だと、僕は思っています。
これがうまく回ると、
プレイヤーがずっと遊べるサイクルを生み出せるんです。
さらに今回は、この3本に
“通信”を使った仕掛けを入れています。
あ、勝手にアピールしちゃいますけど、よいですか?(笑)
岩田
はい、もちろん(笑)。
浅野
シナリオについては、先ほどご紹介した、
主人公が村を復興させるというすれちがい通信。
バトルについては、ほかのプレイヤーのキャラクターを
すれちがい通信で受け取り、自分のバトルに呼び出せる
「フレンド召還」という機能を入れています。
そして、成長については「アビリンク」というシステム。
アビリンクとは、友達が育てたキャラクターの
ジョブアビリティを、一時的に自分のキャラクターで
使用することができるようになるシステムで、
たとえば林さんが育てたナイトのジョブレベルが上がっていたら、
自分のナイトのジョブレベルが低くても、
本来なら覚えていないアビリティを使えるようになります。
だから「林さんはナイトを育ててください、
僕は魔法使いを育てますから」ということができます。
岩田
キャラクター育成を、友達と分業できるんですね。
今回、「通信に注力しよう」と思われたのは、
3DSの魅力の中に通信の要素が大きな柱になっていると
感じていただいたからですか?
浅野
そのとおりです。
今回はすれちがい通信だけでなく、
インターネット通信もできますので、
すれちがいしにくい地域にお住まいの方も安心してほしいですね。
基本的には王道RPGで、1人で遊ぶものだけれども、
“みんなで遊ぶ1人用RPG”
というコアコンセプトがあります。
岩田
すれちがったり、インターネットでつないだりすれば、
ほかの人といっしょに遊ぶ要素が増えて、
1人だけでは味わえない遊びかたを選択できるんですね。
浅野
はい。フレンド召還で強い技を受け取ってボスに挑んだり、
ダンジョンの中で回復魔法を配信してもらったり・・・。
友達といっしょに遊べばより楽しめますので、
コミュニケーションツールとして
使ってもらえるといいなと思っています。
岩田
周りに遊んでいる人がいると、
遊びかたの幅がぐっと広がりますね。
浅野
はい。ファミコンのRPGの体験も思い返せば、
「あのボスはどうやって倒すんだ?」とか、
みんなでそういう話ばっかりしていましたよね。
岩田
そう、あれが楽しかったという人がすごく多いです。
その現代版が、3DSの通信を上手に活かすことかもしれません。
そういう意味では、さっきのRPGの三要素に、
3DSだからできる“通信”をかけ算すると、
「1人用RPGの遊びかたをどのように広げられるか?」
というチャレンジにもなりますね。
林さんはRPGというところで、
今回こだわったポイントはどこですか?
林
ふだんノベルゲームを書いている身からすると、
アクションゲームよりもストーリー性の強いものであり、
アドベンチャーゲームよりも自分が動かして、
世界を体験できる部分の強いものが
RPGの魅力だと思っています。
なので、感動できるストーリーかつ、
その世界に入って自分が体験できるという、
その絶妙なバランスを意識してつくりました。
岩田
浅野さんは、林さんに任せていると、
どんどん王道RPGができていくので、
安心して見ていられた感じなんですか?
浅野
まさにそうですね。
魅力的なキャラクターを生み出すには、
林さん以上の方はいないと思ってお願いしているので、
信頼して「これでいきましょう!」と・・・。
林
・・・(小声で)
そんなすんなりじゃなかったような(笑)。
浅野
(笑)。まあ、「こういうキャラを出してください」とか、
「このキャラにはこのシステムを象徴させるお話があります」とか、
土台の部分で、いろんな制約の話をさせてもらいましたね。
岩田
やっぱり話を訊いていて、
“理性”と“感性”の絡み合いかたが面白いですね。
浅野さんは機能や理屈を考えていて、
全体の構造として必要だからリクエストを出しますね。
でも、それ単独ではぜんぜんつながっていないので、
「つじつまをどう合わせるかは、考えてください」って、
いわば林さんに無茶ぶりするわけですよね(笑)。
林
はい(笑)。
でも、いかにその世界にあるものとしてシステムを描くかは、
一番苦しい部分であり、一番面白い部分なので、
やりがいはありました。
浅野
じつは、最初の体験版でヒロインがARで出てくるところも、
「ARで等身大のヒロインを出して、プレイヤーに救いを求めたい」
ということだけが決まっていて、
「この子は、どこで、何で困っているんでしょうかねぇ?」
ってところから考えてもらったんです(笑)。
一同
(笑)
岩田
でも、おふたりの違う力点がそれぞれに発揮され、かつ、
ちゃんとかみ合っているのが伝わってきて、面白いです。
ものをつくるうえで、こういう出会いはとてもいいですね。