似顔絵チャンネルの開発スタッフに制作にまつわる話を語ってもらいました。
※インタビュー内容は掲載日(2007年3月16日)時点のものです。
制作部の野上です。「似顔絵チャンネル」全体のとりまとめを担当しました。 |
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企画開発部の高橋です。野上さんと一緒に、「似顔絵チャンネル」全体をとりまとめました。 |
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企画開発部の岡本です。「似顔絵チャンネル」のMiiのパーツをデザインしました。 |
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制作部の白岩です。「似顔絵チャンネル」と、Miiに関る部分のプログラム全体を担当しました。 |
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「似顔絵チャンネル」ではMiiというキャラクターを作ることができます。また、作成したMiiはWiiの他のソフトで利用することができるんですが、実は、自分や知り合いの顔を作って、ゲーム上で活躍させるという発想は、宮本(茂)さんがずっと長い間持ち続けていたものなんです。 |
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その構想が最初に世に出たのは、64DDの『マリオアーティスト・タレントスタジオ』でした。扱える人にとってはすごく楽しめるソフトだったんですが、今思うと少し敷居が高いソフトだったかも知れません。発売当時は、「より高機能に、より高機能に」という風潮があって、操作が複雑になってしまった部分があったんです。 |
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Wiiに向けて開発していた「Wii Sports」や「はじめてのWii」の中でも「知ってる人を作りたいプロジェクト」は続いていました。宮本さんはこのプロジェクトに「こけし構想」って名前をつけてましたね。「こけし」というのは、今のMiiのことです。以前との大きな違いは、Wiiリモコンにデータを入れて持ち運べるものにしようという明確な考えが宮本さんにあったことでした。でもWiiリモコンにMiiをいれるためには、データを小さく抑えなければいけない。そのことで、さらに開発のハードルが高くなってしまい、どうしたものかと悩んでいました。 |
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実はその頃、私たちが「こけしこけし」と言っているのとは全く別なところで、似顔絵作成ソフトの開発プロジェクトが動いてたんです。 |
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私や岡本さんが所属している企画開発部で、ニンテンドーDS向けに、友達をたくさん登録して遊ぶソフトを作っていたんです。その中で、顔を作って登録させることができればもっと愛着を持っていただけるだろうと思い、目や鼻のパーツを並べる福笑いのようなソフトを開発していて。本当に、「こけし構想」の事はつゆ知らずでした。 |
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最初は福笑いといっても、決められた位置に決められたパーツを置くというものでした。実際にいろんな人の顔を作っていくと、私たちの上司の坂本さんの顔はこれでは作れないんじゃないか?という話がでて(笑)。 |
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本人からも「僕みたいな規格外の顔も作れるようにしてくれ」って(笑)。 |
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坂本さんはもっと鼻が大きい、口も大きい、目ももっとたらしたほうが似るんじゃないか・・・という具合に。 |
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そこで出てきたのが、パーツを回転や移動、拡大させたらどうだろうというアイディアでした。目の位置を上下左右に動かしたり、角度をちょっと変えることで、ぐっと似るようになったんです。 |
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パーツをデザインしていたときは、拡大するなんて全然考えていなかったので、「本当にこれでいいのかな」と思ったんですが、実際に似顔絵を作ってみるととてもいい感じで、これなら確かにやるべきだな、と思い、手を加えていきました。 |
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それで社内の人の顔データをたくさん作ったあと、そのDSソフトを坂本さんが岩田さんにプレゼンテーションしたんです。そのとき岩田さんは、宮本さんから「知っている人の似顔絵を作りたい」という話を以前から何度も聞かされていて、Wiiでも、「こけし構想」の話があるのをご存知で。そんなときに宮本さんの構想とは全く関係ないところで作られていたこのソフトを見て、宮本さんが求めているのは、まさにこういうものではないのか?と思われて、すぐに宮本さんに見せられたそうなんです。 |
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岩田さんからその似顔絵ソフトを見せられた宮本さんはピンと来たようで、宮本さんが私にそのDSの似顔絵ソフトの話をされて。あまりに突然だったので、まずはそれを見せてくださいと。そこで私が高橋さんに会いにいったんですよね。 |
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今までまったく一緒に仕事をしたことがなかった野上さんが、ある日突然(笑)。 |
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それで、DS用に開発されている似顔絵ソフトを見て「あ、なるほど!宮本さんがやりたいのはこういうものだったのか」と思いました。後で聞いた話ですが、岩田さんも内心では「こけし、こけしって、宮本さん、またですか・・・」とちょっと思っていたそうなんです(笑)。でもそんなに宮本さんが言うのだからきっと何かがあるんだろう、とずっと意識していたそうで、そこにたまたま高橋さんたちの似顔絵ソフトを見て、「これだ」と強く感じられたんだと思います。 |
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宮本さんに見せたあと、まだ何も決まっていない段階で、そのDSのソフトを岩田さんがたくさんの人が集まる会議でテレビに大写しにして見せちゃったらしくて・・・。岩田さんの似顔絵も含め、本人の許可なんて一切とらずに勝手に似顔絵を作っていたので、あとで怒られるんじゃないかとビクビクしていました(笑)。似顔絵って必ずしも本人にとって理想の顔になるわけではないので。でも、会議での評判は良かったようです。 |
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私たち企画開発部のスタッフからすると、宮本さん率いる、野上さんたちの情報開発本部制作部って全く別世界なんです。私の中では制作部というところは、すごくきっちりしたものを作るというイメージがありました。私が所属している企画開発部のほうは、ちょっと変わっているというか、ムードが違うところがあって。『ゼルダの伝説』のような、何年もかかるプロジェクトを進める制作部に対して、『おどるメイドインワリオ』のような瞬間的だったり、ちょっと変わったソフトを作ってしまう風土があるというか(笑)。最初、プログラムを見せてくれという話がきたときは、正直言って「まるまる持っていかれたらやだなぁ・・・」なんて心配もしたり(笑)。だけど、話を聞いているうちに、「これはどうも壮大なプロジェクトにつながっていくぞ」という気がしてきました。 |
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そんな話が交わされたあと、私たちが企画開発部から制作部に行って一緒にWiiの『似顔絵チャンネル』を作ればいい、という話になったんです。 |
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上司から「修行だと思いなさい」って送り出されました(笑)。 |
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私も、最初は制作部内で野上さんとは別にWiiの実験をしていたんですが、ある時、上司がDSを持ってきて、高橋さんたちが作っていた似顔絵ソフトを見せてくれたんです。「おもしろいものを作ってるんですね?」と見ていたら「実はこれをWiiに入れなければならないんだけど・・・」と言われて・・・。 |
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ここにもなんの話かよくわからないところから巻き込まれていく人が(笑)。 |
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合流した企画開発部のメンバーは、高橋さん、岡本さん含め、すごく若い人たちばかりで。私はプロジェクトチームの中で自分が一番上の年代になるというのが初めてだったので、最初は不安でした。上に人がいたときは、自分がわからなければ「上の人に聞いて」と言えたんですけど、自分が一番上で頼られる立場なんでちゃんと説明しないといけなくて。この人達がわからないのは僕の責任なんだと。自分でわかるのと、人に説明できるほどわかるのとではとても違うってことがわかりました。 |
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任天堂に企画開発部ができてから、制作部とのこれほど完全な共同プロジェクトは初めてでした。たださっき高橋さんの印象で制作部はすごく“きっちり”していると・・・。たしかにそういう面もあるんですけど、基本的に宮本さんも、ちょっと“変”なものは大好きですよ(笑)。 |
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まず、高橋さんたちが作っていた似顔絵ソフトを見た瞬間に・・・、私はよく「1本の糸の上に乗っかっている」という表現をするんですけど、ちょっとバランスを崩してしまうと、この良さが無くなりかねないと思ったんです。これを生かすには相当慎重さが必要だぞ、と。それと、WiiはDSと違いTVなどの大画面に映すので、絵のクオリティを上げる必要は感じていました。 |
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それと、開発途中で「これで外国人が作れるのか」という疑問がありました。ある時、NOA(米国任天堂)の幹部社員の顔を作って、岩田さんがアメリカ出張に行った時に見せたら大ウケだったと聞いて、その時は「何とかなりそうだ」と思ってたんです。 |
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ところが、その後日本にNOA(米国任天堂)や、NOE(欧州任天堂)の幹部の方が来られる機会があって、そこで宮本さんから「明日見せるからその人達の似顔絵を作ってほしい」と言われて。私が用意したものを宮本さんが会議に持って行かれたんですが、帰ってきて「全然ウケへんかったよ・・・」と言われてしまって・・・。 |
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今思えば、岩田さんがアメリカで見せたのはDS用で、細かいところは比較的アバウトに作られていたんです。だから想像力で補って楽しんでもらえた所があったのかもしれません。ところが宮本さんが見せたWii用になるとすごく綺麗に線がでるので、もっと細かい部分にこだわらないと、逆に実際の顔とのギャップが強調されてしまうんです。 |
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そのあと、NOA(米国任天堂)やNOE(欧州任天堂)の窓口の方に連絡して、写真を送ってもらって「どんな目や、どんな鼻、どんな髪型があったら作りやすいですか?」といろいろ聞いて調整をすすめていきました。 |
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細かい部分が気になり出すと、パーツが足りないのではないか?とか、もっといろんな人の顔を表現できるようにしたほうがいいんじゃないか?という考えが出てきました。 |
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ただ、「このパーツさえ作れば、すべては解決する」というようなパーツはありえないんです。だからといって全部の要求に応えていったらすごい数のパーツになってしまう。それに、パーツが多すぎるとお客さんにとって、とっつきが悪くて使いにくいものになってしまうと思ったんです。 |
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また、「Wiiリモコンに入れて持ち運ぶ」という大前提があったので、パーツの数を増やすことでデータが重くならないように、どう多用できるパーツを開発するか、という事を最後まで調整する必要もありました。 |
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私もあまり数を増やさないという方針に賛成でしたから、「そのパーツはいらないと思いますから作りません」なんて言っていました(笑)。 |
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それでもパーツを増やしたい要求がいろんなところから出てきて。もう、それに何度抵抗したことか(笑)。 |
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表情についても、いかにそぎ落としていってスリムなものを作るかということがテーマのひとつになりました。たとえば「目を閉じる」というアクションは、実はどの目もただの線になるようにしているだけなんですが、途中ですべての目のパターン毎に目を閉じたパーツを作ろうという意見もでてきたんです。ただ、そうするとプログラムやデータのサイズがすごく大きくなってしまうのでやめようと。 |
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それでシンプルな方向を目指していった結果、DSの頃にできていた仕組みがほぼそのまま生かされたんです。例えば怒る表現は眉毛と目をつりあげたりと、かなり割り切った表現ですが、割とうまくいったんじゃないかと思います。 |
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絵心のある人からは、もっと色のバリエーションがほしい、例えば髪の毛の色を決めるときにでも、あらゆる色から選べるようにして欲しいと言われたりもしたんです。カラーチャートを入れてほしいとか。でも、カラーチャートを入れてしまったら普通の人にとっては難しくなってしまうと思ったんです。「似顔絵チャンネル」で目指したのは「家族みんなが使えるもの」。だからあえて、今のような形にしました。 |
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プレイヤーが自分で何かを作れる機能を用意しても、これまでの感覚だと、10人に1人・・・下手すれば50人に1人しか使ってくれないんです。絵心のある数少ない人が手間ひまかけてくれるだけというか。そういう点から見ると、「似顔絵チャンネル」はお客さんの利用頻度がかなり高いものにできたんじゃないかと思います。 |
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「似顔絵チャンネル」のデザインは、何を足すかより、何を引くかが重要でした。そぎ落とすことに対して思考が向いている人がうまく集まったことと、割り切るということの大切さをみんなが共有できていたから、結果、いろんな人にとって気軽に使いやすいものになったのではないかと思います。 |
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Miiを交流させようというアイディアも、わりと早くからあったんです。例えば『Wii Sports』で観客に以前一緒に遊んだ友達のMiiがいたり、『Wii Music(2007年発売予定)』でオーケストラのメンバーに知っている人のMiiが入ってきたらおもしろいなと思って、実現する方法をずっと考えていました。 |
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Miiを交流させるには、Wii Connect24につないでいることのほかに、Wiiフレンドを1人以上登録する必要があります。そして似顔絵パレードに行って「交流の設定」を「交流する」にする。そうすると、WiiフレンドのMiiが自分の似顔絵パレードにいつのまにか勝手にやってきたり、逆に自分のMiiがWiiフレンドの似顔絵パレードに登場します。あと、交流させたいMiiは、1人ごとに「公開」の設定を「する」にしておく必要もあります。 |
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似顔絵チャンネルでMiiを作るとまず似顔絵広場に置かれます。別のWiiから送られてきたMiiも似顔絵広場に入りますが、似顔絵パレードに入ってくる場合もあるんですよね。 |
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Wiiフレンドのフレンド、そのまたフレンドからもMiiがやってきます。Wiiフレンドを増やせば増やすほど、どんどんいろんな人と交流ができるんです。 |
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似顔絵パレードはどうやったら人が増えるの?、という質問をよくされるんです。一応、「交流する」を押したときに「パレードにくるコツは、Wii Connect 24をオンにして、フレンドをたくさん登録してください」と書いているんですけど、あんまり読まれてないみたいです(笑)。 |
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最初の頃は「似顔絵パレード」と「似顔絵広場」は同じく100人ずつしか入らないはずだったんですが、ある日突然、「パレードには1万人出そう」と宮本さんが言い出して(笑)。100人出す設計と、1万人出す設計は根本的に違う話なので、正直、頭をかかえました。 |
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1週間ぐらいは悩み続けましたね・・・。1万人ともなると、とにかく登場するMiiを大量に用意する必要がありました。それで「一度消したMiiがたまに出てきたりしたらどうか」というアイデアが出てきたんです。消したMiiがお客さんの見えないところにストックしてあるという仕組みですね。 |
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それで、消去したキャラクターがパレードに溜まっていくことにしたんですけど、そうすると失敗作がどんどんパレードに参加してしまう・・・。やっぱりそれはよくないなと。 |
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そんな経緯があったので最初は「似顔絵パレード」という名前ではなくて、「もぐりこみ広場」と呼んでいました。背景色も黒くて、少し暗いイメージで(笑)。 |
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でも「もぐりこみ」という言葉は印象が悪いので、いっそのこと華やかにしてしまおうと。背景も虹色にして、名前も「似顔絵パレード」になったんです。結局消去したキャラが出てくるのもやめて、WiiConnect24経由でWiiフレンドからやってくるようになりました。 |
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それと、Miiの交流については、作ったMiiが好き勝手に他のWiiにお邪魔するような交流の仕方がいいのか、許可したものだけ交流されるのがいいかは、だいぶ議論になりました。 |
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たとえば、自分の子供の似顔絵が勝手に外に出ていくのは、気持ち悪いから嫌だという人もいれば、それはどんどんあったほうがいいという人もいる。そのいろんな価値観をどう吸収しようか、ということでも悩みました。 |
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結果としては、交流するかどうかをWiiごとに設定できて、Mii 1人ずつに公開するかどうかも設定できることにしたんです。 |
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私は実際に家でWiiを使ってみて、はじめて友達のMiiが届いたとき、すごく感動したんです。だからお客さんにもぜひWii Connect24を使って、Miiを公開してもらえたらと思っています。設定を変えないと、似顔絵パレードの設定は「交流しない」になっているので、ぜひ「交流する」にして、それぞれのMiiを「公開する」にしていただければ。 |
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そうですね。「友達と交流しないとMiiのポテンシャルは生かせないですよ」ということは声を大にして言いたいですね。 |
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似顔絵パレードの面白いところは、そこにいるMiiは、必ず誰かが生んだものだということなんです。全然誰だかわからない人でも必ず誰かが作ったんです。つまり生きているデータが似顔絵パレードにはどんどん溜まっているんですよね。 |
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世界中のどんな人とも間に6人の人を介せばつながるそうですから、もしかしたら地球の裏側からMiiが届いている可能性もありますね。 |
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それと、もうひとつ、Miiがやってくる方法があります。Wiiには任天堂からのお知らせというメッセージが届くことがあるんですが、実は、このメッセージにはMiiをつけることができるんです。つい最近、明石家さんまさんと松岡修造さんのMiiが配信されましたので、まだ受け取っていない人は、ぜひWiiをインターネットに接続してみてください。 |
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高橋さんたちはさっそく「みんなで投票チャンネル」でMiiを使っていますけど、あれはまさにMiiだからこそ成立したものですよね。 |
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そうですね。もちろん投票するだけなら、名前だけでもいいんですが、やっぱり味気ない感じがしたんです。Miiでやってみたら「これしかない」という感じで開発を進めていったんです。 |
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私としてもMiiをうまく使ったゲームをどんどん提案していきたいですね。だからお客さんには今のうちにたくさんのMiiを作っておいてほしいです。 |
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私は、入社後はじめて担当するソフトだったということもあって、こんなふうにいろんな人に教えてもらいながら完成させられたのがうれしかったです。 |
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1人のデザイナーが描いた絵がこんなにあちこちに顔をだすことってあんまりないですよね。これからも岡本さんの絵があちこちのソフトに顔を出すわけですから、それを考えると貴重な体験でしたよね。 |
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私にとっては、やっぱりはじめて他の部署の人と一緒に仕事をして、最後まですごくいい雰囲気で仕事ができたことが素直によかったです。それと、宮本さんの執念が「似顔絵チャンネル」という形でやっと実って本当によかったと思います。今はもうMiiのないWiiって、想像できませんから。 |
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