岩田
それでは向尾さん、さっきの話に戻って、
身の回りで起きた話をしてもらえますか?
向尾
はい。わたしには兄がいまして、
小さいときからいっしょにゲームをしていたんです。
ファミコンの『スーパーマリオ』(※5)もそのひとつだったのですが、
当時は、1回1回、交代して遊んでいて、
同時に遊ぶことができなかったんですね。
ですから、子ども心に、
「これを2人で同時に遊べたら面白いのになあ」
と思っていたんです。
岩田
宮本さんが当時から思っていたことを、
小さかった向尾さんも同時に思っていたんですね。
※5
ファミコンの『スーパーマリオ』=『スーパーマリオブラザーズ』。1985年9月に、ファミコンで発売されたアクションゲーム。
向尾
はい。そこで、今回は
子どもの頃の夢が実現すると思いながらつくっていたんですけど、
正月休みに実家で兄夫婦と集まる機会があったんです。
で、かつてはいっしょにゲームで遊んでいた兄も結婚して、
ずっとゲームをやっていなかったようなんです。
岩田
そういう方は少なくないですよね。
向尾
ところが「『NewマリオWii』を買ったよ」と言うんです。
しかも、夫婦でいっしょに遊んでいると言うんですね。
そもそも、兄の奥さんはゲームが得意ではないそうなんです。
だから「ちょっと難しいね」と言われて、
「やっぱり難しいのか」と思ったんです。
岩田
はい。
向尾
そこで話を聞いてみると、
難しいところは、兄に担いでもらって、どんどん進むようにして、
助けてもらって、やっとクリアしたと言うんです。
岩田
ああ、それはうれしいですね(笑)。
ゲームが上手じゃなくても、うまい人に助けてもらうことで
クリアするという体験をしてもらえるんですから。
向尾
ええ(笑)。今回の『NewマリオWii』は、
そういうプレイもできるのがとてもいいと思いました。
岩田
うまい人がうまくない人を担ぎながら
ゲームを先に進めるというのは、
これまでほとんどなかったですからね。
一角
実際、2人でプレイしている人が多いようですね。
やっぱりカップルとか夫婦とか
相手を誘いたくなるようなところがあるんでしょうね。
岩田
そう、誘いたくなるんですね。
それはカップルや夫婦の間だけでなく、
親子でもそうでしょうし、もちろん友だちでもそうですよね。
そうやって周囲の人たちにゲームの魅力が伝わっていくことには
すごく大きな意味があると思います。
あと、2人プレイで印象に残ったことがあって、
クラブニンテンドーの「プレイ後アンケート」に書いていただいた
お母さんからのコメントなんですけど、
「ひとり30分ずつね…から2人でいっしょに30分ね!
ちょっとお得になりました」と書いてあったんです。
足助
ああ、それは面白い話ですね(笑)。
岩田
このようなコメントは、
お母さんの視点でないと絶対に書けませんからね(笑)。
だから、複数の人が同時に遊べるようになって
待たなくてもいいというのは、
思わぬ副産物をいろいろ生んでいるように思います。
向尾
本当にそう思います。
岩田
さて、内田さん、お待たせしました。
内田さんの周りではどんなことが起こりましたか?
内田
わたしはちょっとみなさんのように
ミラクルな話はできないのですが・・・。
実は音楽の「♪ワッワーッ」のタイミングに合わせて
クリボーがジャンプして踊る演出を入れているんですが、
わたしはクリボーが音楽に合わせて踊ることを
誰もあまり気にはしないだろうなと思っていたんです。
ところが、クラブニンテンドーのアンケートを
わたしも見る機会がありまして、
「クリボーが音楽に合わせてジャンプするのがかわいいです」と
書かれていたお客さんがいらっしゃったんです。
岩田
ちゃんと見ている人はいるんですよ(笑)。
内田
そうなんですよね(笑)。
こんなふうに感想をいただけるなんてすごくうれしかったんです。
で、このゲームが発売された後
家族に『NewマリオWii』の開発に関わっていたことを伝えたら、
「ああ、あの『♪ワッワーッ』と言ってるやつでしょう」と。
岩田
え!それは十分にミラクルじゃないですか(笑)。
一同
(笑)
内田
「♪ワッワーッ」という音で、
共通して認識されてるんだと思いまして、
改めて音ってすごいなあと思いました。
足助
そこにミラクル話を足してもよろしいでしょうか。
岩田
はいどうぞ。
足助
先ほどお話しした
電車のなかの女性2人組のことなんですけど、
ふだんゲームをされない方の女性の方が
「ノコノコが音楽に合わせて手を振るのがかわいいね」
っておっしゃっていました。
内田
えっ、そうなんですか?
足助
そうなんです。
「♪ワッワーッ」に合わせて、
ノコノコが正面を向いて手を振るんですけど、
まさにそのことだと思います。
岩田
サウンドプログラマー冥利に尽きますよね。
内田
はい(笑)。
岩田
ちなみに『マリオ』のサウンドに関して言うと、
近藤(浩治)さん(※6)が担当した曲が有名ですが、
実はわたし、宮本さんほど効果音にこだわるゲームデザイナーは
あまりいないんじゃないかと思っているんです。
わたしがむかし、
ファミコン版の『星のカービィ』(※7)の途中版を
宮本さんに触ってもらったとき、
「カービィが変身するときの音が軽い。
これじゃせっかくの大事な要素に『手ごたえ』を感じない」と
アドバイスしてもらったことがあるんです。
つまり、宮本さんが口癖のように言う「手ごたえ」というのは、
単に「コントローラ入力に対する動きの反応をどうするか」と
いうだけではなくて、「効果音」がとても密接に関係していると
考えているみたいなんですね。
ですから、そういうことを自覚してから『マリオ』を遊ぶと、
「ああ、そうなんだ」ということがいっぱい入っているんです。
その意味では、今回も厳しい要求が
いろいろあったんじゃないかと思うんですけど、
内田さん、実際はどうでしたか?
内田
ええと・・・ひとつ大きいのがありました。
足助
例のプロペラの話です。
岩田
ああ、プロペラですね(笑)。
「社長が訊く『New スーパーマリオブラザーズ Wii』その1」で
宮本さんからも訊きました。
「プロペラはどんな素材でできてるのか?」とか、
「動力は何なのか?」と聞かれた話ですよね。
内田
そうですそうです。
岩田
最終的にOKが出るまで
プロペラの音は何度もつくり直したようですが、
実際はどのくらいつくったのですか?
内田
宮本さんにお見せしたのは10個くらいなんですが、
こちらで試したのは50個くらい・・・。
岩田
50個も!?
足助
それくらい、宮本さんは
プロペラの音が今回のゲームのキーになる効果音のひとつだと
判断されていたようなんです。
岩田
なるほど。
そもそも「何の素材でできているのか」ということは、
空想の世界では、必ずしも考えなくてもいいことなんですけど、
宮本さんがそこに強くこだわるのは、
音というものが、人の感覚と地続きでつながっていて、
触ったときにキッチリとくっつくからこそ、
リアリティや気持ちよさが生まれるということなんでしょうね。
宮本さんはそういうところに徹底的にこだわるので、
「宮本さんのゲームで効果音をつくるスタッフは、
いつも大変なんだろうな」と思います。
内田
確かに、イメージがなかなか
ピッタリ合わないというときもありますね。
わたしも音をつくるとき、
特に、操作に関わるような効果音をつくるときは
手ごたえや操作の気持ちよさをすごく気にしながらつくるんです。
なので、やっぱりそういった操作関連の効果音について
宮本さんからご意見をいただけるというのは、
イメージの方向性がズレないためにも
ありがたいことだと思っています。
※6
近藤浩治=今作のサウンドアドバイザー。『マリオ』や『ゼルダ』シリーズのサウンドを手がけてきた。情報開発本部制作部所属。
※7
『星のカービィ』=『星のカービィ 夢の泉の物語』。1993年3月にファミコン用ソフトとして発売されたアクションゲーム。かつて、岩田(聡)が社長を務めていたHAL研究所が開発。