岩田
高橋さんは、どのような流れで
独立したチームを率いることになったんですか?
高橋
坂口さんに「新しいことをやりたいんだけど」
と言いにいった記憶があります。
当時、まだ『FFVII』をみんなでやっていたころで・・・。
岩田
『FFVII』といえば、ちょうど大きな変化の節目ですよね。
そこでアテにしていた人が独立するとなると、坂口さんは
うれしい気持ちと痛い気持ちと、両方ありませんでしたか?
坂口
はい。正直、ちょっと寂しい気持ちでした。
それからすごく覚えているのは、
高ちゃんが別チームになった途端、
彼の机がガンダムとモデルガンだらけになったこと。
「あ、こういうことをしたかったのか」って、
雰囲気の変わりように、そう感じました。
岩田
まるで卒業していったように感じたんでしょうね。
坂口
はい、勝手な印象なんですけど・・・。
高橋
・・・そんなことを思われていたなんて(笑)。
岩田
高橋さんは『FF』チームから抜けて、
どんなことをやろうと思っていたんですか?
高橋
イベントシーンも含めて、ゲーム全体の面白さを
すべて3Dで見せられないかなと思ったんです。
そんな系統のゲームをつくりたいというのが、最初の動機でした。
岩田
『VII』とは、あえて違う3Dの使い方をすることに
意味があると思っていたんですね。
高橋
そうです。会社として『VII』の方向性とは別の3Dのノウハウを
蓄積しておく必要があるんじゃないかと思いました。
そこでマップなどを全部3Dにして
自由に角度を変えて遊べるようにしたかったんです。
岩田
実際にグラフィックだけを担当していたときと、
ゲームそのものを考え、まとめるときとは、
だいぶ勝手が変わりますよね。
高橋
はい。当時は手探りで進めなきゃいけなかったんです。
岩田
でもあの時代は、みんな手探りでやっていましたよ。
坂口
『VII』も完全に手探りでした。
岩田
むしろ、ゴールを最初からイメージしてつくっていた人は
ほとんどいなかったんじゃないでしょうか。
高橋
じつは僕のチームの9割が、3Dを知らない新人だったんです。
人間関係に悩んでいる人がいれば助け船を出したり、
相談に乗ったり、みんなのメンタルケアをするのがいちばん大変で、
「坂口さんはこういうことをやっていたんだ」って
そのときはじめて気づきました。
岩田
独立して、はじめてわかる親心ですね(笑)。
坂口
なるほどねー。
岩田
坂口さんは、チームのケアの必要性を
いつごろから感じていました?
というのは初期の『FF』は期間も短く、人数も少ないから、
チームのメンタルケアを考える暇も
なかったんではないかと思うんですが・・・。
坂口
そうですね。ただ『III』(※7)まではプログラマーが外国人で、
腕は抜群なんですが、日本語はしゃべれないし、
RPGそのものを知らなかったので、別のケアは必要でした。
毎日、彼とステーキを食べながらですね・・・(笑)。
※7
『III』=『ファイナルファンタジーIII』。1990年4月に、ファミコン用ソフトとして発売されたRPG。シリーズ3作目。
岩田
毎日ステーキですか? それは強烈ですね(笑)。
坂口
彼はステーキしか食べられないんですよ。
とにかくメインプログラムを何とかしなきゃならなかったので、
チームではないんですが、そういうケアはしていました。
岩田
絵がリッチになったり、
ロム容量が増えたりといったゲームづくりの変化は、
スーパーファミコン時代に坂口さんが通った道でしたが、
高橋さんがチームを率いて旗揚げしたときには、
“3D”というもっと強烈な変化が来たんですね。
というのも、3DやCGが入ってきて急激に分業化が進みながらも、
当初はものづくりの方法論が確立されていなかったんですよね。
高橋
そうですね。
岩田
スーパーファミコンで確立したものづくりの方法論が
3Dの到来で御破算になり、ゲーム業界は困ったわけです。
坂口
ほとんどの人がCG用語すら知らないんです。
そのうえチーム運営も行うというのは、
嵐のなかに大勢を抱えて飛び出すようなものですから。
岩田
それほど大変だったチーム運営にも関わらず、
高橋さんを駆り立てていたものは何だったんですか?
高橋
そうですね・・・。自分としては「絶対いける、大丈夫だ」
という思いがあったので、そこだけがよりどころでした。
その気持ちをもっとみんなと共有していれば、
スタッフもつくりやすかったんじゃないかなと、いまなら思います。
岩田
自分のなかから湧き上がる「実現したい」という思いだけで、
道も見えてないのに、みんなを巻き込んでやり通してしまう。
これは若さゆえにできることかもしれませんね。
坂口
はい。多少無謀と思えることも、やり遂げてしまいましたね。
岩田
後からすごいと言われるものほど、
最初は非常識と思われるものですから、
常識があって分別があるほど、足がすくんじゃうんですよね。
坂口
そうですね。あのときはあれでよかったんですよ。
高橋
だからこそいまがある、みたいな感じですよね。