2. 球状地形のメリットとは

岩田

これまでの『マリオ』は、
ジャンプゲームの歴史を歩んできたわけですけど、
今作では重力がテーマになっていて、
球状地形のステージがあって、しかも舞台は宇宙です。
そんな話だけを聞かされても、頭の中には
クエスチョンマークがいっぱい並びそうですよね。
みなさんは、はじめて『マリオギャラクシー』の企画を聞いたとき、
どんな第一印象を持ちましたか?

林田

ぼくは、とてもポジティブに受け止めました。
球状地形のテーマは、
2000年のゲームキューブの発表会のときからあって、
いつかやるべきテーマだと思っていましたから。

岩田

球状地形のゲームをつくる価値やメリットについては、
初期の段階からイメージできていたんですか?

林田

見た目がとても新鮮だとは思っていましたが、
ジャンプアクションのゲームにするには、
かなり相性が悪いだろうなとも思っていました。
ただ、球状地形を活かした新しい遊びを用意すれば、
そこは解決できるとは思っていたんです。

岩田

それで、スピンアクションが生まれたというわけですね。
プログラマーの清水さんはどう思いましたか?

清水

正直に言うと、かなり否定的でした(笑)。

岩田

それって、とても自然な反応だと思います。
球状地形にしたところで、なにがどうおもしろくなるんだろうかと、
最初は疑問に感じると思うんです。

清水

わたしの場合、技術的にも、
このようなものはつくれないんじゃないかとも思いました。
その前は『ジャングルビート』をやっていまして、
2Dのゲームなのに、仕上げるためにヒーヒー言っていたくらいですので、
これまでの3Dゲームをひとつ飛び越したような、
超3Dのソフトをどうやってつくるんだろうと思ったんです。
それに、企画が通ったあとは、
プログラムの仕事は、自分に回ってくるのはわかっていましたし、
そこに大変な危機感を感じていたんです。

一同

(笑)

岩田

自分がとんでもない仕事に巻き込まれるかもしれないと、
危険を察知していたんですね(笑)。

清水

だから、全力で反対しました(笑)。

一同

(爆笑)

岩田

そんなに否定的だったのに、
印象が肯定的になったのは、どんなときだったんですか?

清水

手応えを感じたのは、わりと最近のことなんです。
わたしは日々、プログラムをつくり続けるだけで、
ゲームを通して遊ぶ機会がありませんでした。
そこで、開発の終盤になってから
デバッグもかねて、頭から通して遊んでみたんです。
すると、とても新鮮な感覚が得られたんです。
「オレって、いま、これまでにないゲームを遊んでるぞ」
って思ったんですね。

岩田

そのような感覚ってすごく大事ですよね。
ゲームに驚きが少なくなっていく中で、
これまでとは違うものを触ってるという感覚ですね。
ほかにも球状地形のメリットがあると思うんですけど、
白井さんはいかがですか?

白井

ぼくは、ステージ構成を担当することが決まっていて、
最初にこの企画を聞いたとき、
「どんな星が宇宙に浮いてたら楽しいのかな」って考えたんです。
→アイスクリームやリンゴの形をした星が浮いていて、
そこを走り回れたら楽しいだろうなって、
いろんなアイデアがどんどんわいてきたんです。

岩田

舞台を宇宙に設定したからこそ、
いろんなアイデアが出てきたんですね。

白井

だから、ぼくも林田さんと同じく、
ポジティブな印象からスタートしています。
アイデアがどんどん浮かんできては、すぐにメモをして、
壁に貼っていくようにしていました。
空を見上げて、いろんな形の星が広がっていると、
あそこにも行ってみたいという気持ちになれますし、
星の裏側に回ってみると、それまで知らなかった星が見えたりという
新しい発見もあって、それは球状地形ならではのメリットだと思います。

岩田

デザイナーの元倉さんはどうですか?

元倉

→星と星を行き来するとは言っても、
シーンが完全に切り替わって、まったく別のステージに移るのが、
これまでのゲームだと思うんです。
でも今作では、マリオは体操選手のように
星に着地するようになっていて、
スムーズに、別の星の冒険が楽しめるようになっています。
しかも、コンパクトにつくられた宇宙空間に、
いろんなバリエーションの星が浮かんでいますので、
デザイン的にも、これまでにないような
タイトルになっていると思います。

青柳

→それに、でかいボス
小さな星にドーンと出てくるシーンなんかは、
すごく迫力があると思いますよ。

林田

3Dのゲームなのに、次にどこに行くのか迷いにくいことも
大きなメリットだと思います。
星から星へと渡り歩く感覚は、
2Dマリオの世界に近いのではないでしょうか。

岩田

宇宙空間に、これから行くべき星が見えるというのは、
とりあえず走り回っていれば、
迷わずにそこに行けちゃうような印象がありますね。

林田

だから、3Dアクションが苦手な人でも
楽しめるんじゃないかと思っています。

岩田

とは言え、モニターの声を聞いてみると、
「こんなにわかってもらえないのか」
ということも少なくなかったんでしょう?

白井

たくさんありました。
そういうときは、ネタを組み直したりとか、ときには、
あちこちに登場するキノピオにヒントを言わせるようにして・・・。
それはちょっと逃げなんですけど(苦笑)。

岩田

テキストで解決するというのは、それで解決できても、
開発者としては、ちょっと敗北感があったりしますよね(笑)。

白井

はい。それはもう最後の手段でした(笑)。
そこで、デザインで解決してもらったりとか・・・。
マリオがなにをすればいいのか、ひと目見ただけで
わかるようなデザインをつくってもらいました。

元倉

困ったときはトゲです。

一同

(笑)

岩田

たしかにトゲを見ただけで、
マリオが痛い目にあいそうだってことがわかりますからね(笑)。