2. たくさんの声を聞きながら

岩田

昨年のWiiの発売時に、
3Dマリオの新作をのぞむ声は多かったですよね。
ゲームキューブが出たときも、
『スーパーマリオサンシャイン』(※4)がいっしょに出ていれば、
という声があったのも事実ですし。
『マリオ』は、そんな宿命を背負ったソフトだと思います。
今回は、Wiiの発売から11カ月すぎて発売されることになりますが、
そこに、どのような葛藤があったのか、お訊きしましょうか。

※4

『スーパーマリオサンシャイン』=2002年7月に発売されたゲームキューブソフト。『マリオ』の3Dアクションゲーム。

『スーパーマリオサンシャイン』

清水

昨年、アメリカで開かれたE3(※5)のときに、
はじめて出展しましたが、宮本さんから、
「Wiiの発売から6カ月以内に『マリオギャラクシー』を発売します」
と発表がありました。そのときは、わたしたちとしても
「なんとかなるかなあ」とは思っていたんです。

※5

E3=2006年5月にロサンゼルスで開催されたゲーム展示会

岩田

ところが、読みが甘かった。

清水

はい。そこは、ずっと待ってるお客さんには、
本当に申し訳ないと思っています。
でも、久しぶりの『マリオ』の3Dアクションですし、
今作に対するいろんな想いがわたしたちの中にあって、
そういったことを消化しない限りは、
お客さんから評価をいただけないと思ったんです。
ですから、Wiiと同時に出すことも大事なんですが、
お客さんが「本当に買ってよかった!」って
思っていただけるような商品をつくることの方を
優先したかったんです。
もし、今度の『マリオギャラクシー』の評価が低ければ、
「東京制作部を撤収する」くらいの
意気込みだったんです。

岩田

それで、ものすごい数のモニターをとったわけですね。
どうしてそのようにしたのですか?

小泉

モニターをしっかり取ろうと考えたのは、
『ジャングルビート』の経験からなんです。
このソフトは、2004年に開かれた
「ニンテンドーワールド」(※6)などのイベントに出展されましたので、
会場に足を運んで、プレイする人たちの姿をじっくり観察して、
それを最終的な調整に活かすことができました。
作り手として、どういう場面ではどんな気遣いをしなければならないか
という貴重な経験が、そのときできましたので、
今回の『マリオギャラクシー』では、
そういったことを、徹底的に活かそうと考えたわけなんです。

※6

ニンテンドーワールド=2004年11月に、東京や大阪など、全国5か所で開催された体験イベント。

岩田

やっぱり3Dアクションは、ほかのゲーム以上に
モニターに触ってもらうことが、必要なジャンルなんでしょうか。

小泉

じつは、ひょっとしたら3Dのアクションゲームを
誰もが手軽に楽しめるようにすることはできないのではないかと
考えた時期もあったんです。
3Dの地形で、自分がどこにいるのか迷ってしまう人も多いですし、
カメラが勝手に動くと、
3D酔いをしてしまう人も少なくないですしね。
そこで、『マリオサンシャイン』の開発の時は、
いろんなカメラモードを用意して、
お客さんが好きなようにカメラを触れるようにしたんですけど、
そうすることで、プレイするのにワンクッション仕事を
プレイヤーに課すことになってしまったんです。

岩田

それが心残りになってるんですか?

小泉

ええ。そのあとにつくった『ジャングルビート』では、
だからこそ、カメラを自動にして、
つまりカメラ操作を気にせずに遊べる
横スクロール型のアクションゲームを追求しました。
でも、3Dアクションゲームの
カメラに対する課題の答えを、実はなにも出さずに
終わらせてしまったんじゃないかと思ったんですね。

岩田

『ジャングルビート』では、目先を変えることができたけれど、
本質の部分では、答えにはならなかったというわけですね。
小泉さんも開発にかかわった『スーパーマリオ64』(※7)は、
とても高い評価をいただく一方で、
3Dアクションゲームに対して、苦手に感じてしまうお客さんを
生み出すことになりましたよね。
そのときに生まれた課題を、
先送りにしてしまったということなんですね。

※7

『スーパーマリオ64』=ニンテンドウ64と同時に発売された、マリオ初の3Dアクションゲーム。1996年6月発売。

『スーパーマリオ64』

小泉

本質の問題から、そっぽを向いた感じですよね。
だからこそ、『マリオギャラクシー』では、
3Dアクションというむずかしい問題に対して、
真正面から取り組んでいこうと思ったんです。
そのためにも、たくさんのモニターの意見を聞く必要がありました。

清水

それで、たくさんのモニターをとったわけですけど、
ある意味、わたしはモニターの代表だった部分もあると思ってるんです。
もちろん宮本さんにも、たくさんの試食をしていただきましたけど、
宮本さんとは大きく違うところがあって、
じつは、わたしは3D酔いしてしまうタイプなんです。

岩田

3D酔いをする人がプロデューサー(笑)。

小泉

できたものを、片っ端から
清水さんに触ってもらうようにしていたんですが、
「これダメ、酔う」って言われたら、
「はい、すぐに直します」って感じで。

岩田

まさに3D酔いセンサーですね(笑)。

清水

だから、センサー役に徹しました。
宮本さんがやってきて
「ハデなカメラにしないと迫力がなくなるよ」と言われても、
「そうすると、ぼくは酔っちゃうんです」って言い返したりとか。
でも、わたしの意見はなかなか聞いてくれないんです。
モニターの人から「ここで酔います」って意見が出てくると、
「じゃあ直そうよ」ってなるんですけどね(笑)。

岩田

宮本さんにとっては、身内の意見よりも
お客さん第一なんでしょうね。

小泉

ただし、人ってそれぞれですし、
あくまでも、「酔いにくいカメラ」なんです。
必ず酔わないとは言い切れないんですね。

岩田

なるほど。
とは言っても、まだ開発中のソフトを、
スタッフではない人たちにプレイしてもらって、
その反応をゲームの中に盛り込むようなことを、
今作では徹底して追求したんですね。