任天堂は、自社で生産工場を持たない「ファブレス型」の生産体制をとっています。外部の工場と協力して生産を行うのですが、お客様に安心して製品を手に取っていただけるよう、任天堂が責任を持って品質の保証を行わなければなりません。検査器は、その品質保証に必要なものの一つで、製品が正しく動作するかを確認するための装置です。製品に合わせて適切に、効率よく確認を行えるよう、検査器は自社で開発を行っています。
Nintendo Switchのゲームカード(パッケージ版ソフト)は、日々驚くほどの枚数が出荷されていますが、これらもお店に並ぶ前に、ひとつひとつ検査器での動作確認が行われています。多量のゲームカードを安定してお客様にお届けするには、検査品質は維持しつつ、短時間での動作確認が求められます。それを実現するため、最適なIC(集積回路と呼ばれる電子部品)を選定し、検査器開発を基板設計から始める必要がありました。
私はソフトウェア担当者として、プロジェクトリーダー、ハードウェア担当者と共に、検査器開発に携わりました。当時の私は、検査器を基板から開発した経験がなく、最初はアプリケーション開発のことだけを考えていました。しかし、新規開発では、それまでの自分の担当範囲だけを考えていては解決できない課題も発生します。例えば、検査器に載っているICを制御するデバイスドライバーと呼ばれるソフトウェアを作成したり、検査器ハードウェアの性能を引き出して検査効率を上げたりする等、ハードウェア・ソフトウェア両方の知見が必要な課題もありました。そういった課題を解決するため、自分はソフトウェアのことだけを考えればよいのではなく、枠を意識せずに広い視野で課題に取り組まなければならないという思いを強く持つようになりました。そのために、検査器開発メンバーや他の関係者と意見を交わしたり、外部の講習会に参加したりして、知見を深めながら開発を行いました。また、検査器基板回路図の検図(回路図が正しいかの確認)といった、ソフトウェア外の課題にも積極的に関わるよう心がけました。
検査器開発の中で得た知見は、トラブルが発生した際にも活かされました。検査中に故障品が発見された際、検査器から音を鳴らすという機能をソフトウェアで実装していたのですが、音が鳴らないという問題が発生しました。ソースコードからはソフトウェアの不具合は見つからず、何か解決の糸口が見つけられないか、検査器基板上の波形を測定しようと考えました。すると、ソフトウェアが原因ではなく、検査器基板に載っている電子部品の異常という、ハードウェアの問題であることが分かったのです。問題解析の視野が広がったこと、基板の回路動作を理解していたことで発見できた原因だったので、自身の成長を嬉しく感じると共に、より多くの問題を解決できるようになったという自信になりました。
任天堂に入社する前、私は検査器開発という仕事についてまったく意識をしておらず、漠然とソフトウェアとハードウェアの両方を扱う仕事をしたいと考えていました。実際に検査器開発に携わってみて、ソフトウェアとハードウェア、他にも多くの視点で課題を解決しなければならないことが多く、自分のやりたい仕事に近いことが分かりました。こういう仕事は難易度が高いですが、挑戦しがいがあり、楽しみながら成長できます。このゲームカード検査器開発で得た経験も、その後の検査器開発に大いに活かせています。任天堂は事業規模と比較すると社員数が少ない会社ですが、その分経験できることが多く、多方面で成長できることも魅力だと考えています。