「EMS(Electronics Manufacturing Service)」というと、あまり聞き慣れない名称だと思いますが、生産委託先会社のことです。もともとNintendo Switch は、中国のEMS工場で生産していましたが、現在はベトナムやマレーシアなどでも生産しています。世界中のお客様のニーズにお応えするため、安定して大量生産することが求められるのですが、生産に必要不可欠となるのが各EMS工場に設置されたサーバーです。
私たちのチームでは、各EMS工場に設置したサーバーの構築と運営を担当しており、その目的は、Nintendo Switch のネットワーク関連機能を正しく動作するように設定することにあります。そこで、EMS工場に置かれたサーバーと、生産途中のNintendo Switch とを接続して、ネットワークにつなぐためのデータを製品本体内に書き込み、生産時の主要なデータを社内システムに送信するなど、さまざまな処理を自動化しています。
ただ、そのような方法では、いくつかの問題が生じる可能性がありました。現地工場にサーバー機器を設置するオンプレミス環境では、海外特有のさまざまな事情により電力供給やネットワーク環境が不安定になることがあり、それらが原因でサーバーがダウンしてしまえば、Nintendo Switch の生産もストップしてしまいます。もちろんサーバー障害の発生を考慮し、サーバーを複数台構成にすることで冗長性を持たせていましたが、急激な増産により処理が追い付かなくなることや、機器の想定外の故障が発生することもありました。
日々の自動監視によって異常を検知した際には、迅速に復旧させるためのアイデアをチームメンバーで出し合い、生産を止めないように対処しました。それ以外にも、日本からの遠隔操作で対応ができないトラブルが起これば、私たちが現地に駆けつけて、自分たちで解決することもありました。
Nintendo Switch の需要が世界的に高まったことによって、より一層の増産体制が求められるようになったことをきっかけに、クラウド化によりシステム改善ができないか、チームで検討を開始しました。
過去には、緊急対応が必要なトラブルがいくつか発生したものの、数年間オンプレミスで生産継続できていたシステム構成の刷新は大きな挑戦でもあり、そのための設備投資には追加コストもかかります。
そこで、サーバー障害に強く、システムの処理能力を柔軟に増強でき、セキュリティ面でも優位となるなどのクラウド化のメリットを活かせるシステム改善を、上司や関係者にボトムアップで提案しました。その結果、期待以上のメリットが得られそうだということが上司に認められ、システム刷新を進めることになったのです。
進めるにあたっては、クラウド化したシステムが実際の生産に耐えうるものとなるよう、セキュリティを考慮しながらシステム全体の仕様を検討したり、社内システムへのデータ送信プログラムを再設計したりするなど、チーム全員がそれぞれの専門分野で知恵を出し合いました。
既存システムの刷新という挑戦に対して、クラウド化のメリットを十二分に引き出せるシステムを構築することができ、お客様に安定してNintendo Switch を供給できる生産体制にすることができました。
私が関わった仕事は、お客様が直接、目にすることはありません。ですが、私たちが構築したシステムは、Nintendo Switch の生産を支え、ご購入後も、Nintendo Switch のネットワーク関連機能を正常に使用できるようにするための、なくてはならない業務なのです。
大量生産と安定供給を支えることで、これまでにたくさんのNintendo Switch が、私たちの構築したシステムを通って、世界中のお客様の元に届いているのだと思うと、とても感慨深いものがありますね。