アメリカでは毎年、E3(Electronic Entertainment Expo)というゲームの見本市が開催されますが、任天堂でもそれに合わせて新作ソフトの発表を行うことがあります。Nintendo Switchの『ゼルダの伝説 夢をみる島』も、2019年のE3で出展することになり、グラフィックを制作するグループに所属する私は、広報用イラストの素材制作のため3DCGモデラーとして関わることになりました。 3DCGモデラーとはイラストや映像などを制作するための3Dモデルを作る仕事です。
『夢をみる島』は、1993年にゲームボーイ用ソフトとして発売された同タイトルをNintendo Switch向けによみがえらせたものです。過去に遊んでくださったファンと新規のユーザーの方々に届けることができるメインビジュアルはどういうものか、ゲーム開発のメンバーや私たちグラフィック制作の担当者とで意見交換をした結果、懐かしさがありながら新規性を取り入れたゲーム画面に寄せた3DCGイラストを制作することになったのです。
しかし、ゲーム用のデータをイラスト制作で使える3DCGモデルにするにはいろいろな工程を踏む必要があります。メインビジュアルに3DCGイラストを使うことが決定してから、E3までの時間が限られていたため、最初から計画的に作業を進めなければなりませんでした。
まず取りかかったのが、メインビジュアルのための3Dモデル制作です。
Nintendo Switchでいくらゲーム画面がキレイになったからといっても、ゲーム用のデータをそのまま広報用のCGとして使用することはできません。ゲーム開発チームから、主人公のリンクのほか、ゲームに登場する敵、そしてさまざまな植物や建造物などのデータを提供してもらい、広報用素材に最適化された3DCGデータに置き換える必要がありました。
具体的には、ゲームで使われたゲーム用のモデルデータをより高精細に仕上げて、クオリティーを一層磨き込みます。これこそが3DCGモデラーの仕事の醍醐味のひとつです。
ただ、すべてのモデルに対して一つひとつ丁寧に手作業で対応していては、時間がいくらあっても足りません。
限られた時間のなか、もっと効果的な仕事の進め方はないかと考えて私が取り組んだのは、ゲームデータをイラスト向けに使用できるデータに最適化するための「自動化」でした。私はプログラミングを自主的に勉強し、使用している3DCGソフトの「MAYA」上で、ゲーム用のモデルデータをイラスト制作に使用できるデータへ自動的かつ効率的に変換する仕組みを作りました。その結果、締め切りよりも1週間早くイラスト用のデータを完成させることができ、無事期日に間に合わせることができました。
また、3DCGモデルを制作する傍ら、このプロジェクトではメインビジュアルの構図そのものに対して、積極的に提案していくことも心掛けていました。プロジェクトメンバーと相談しながら、見る人に「壮大な世界を冒険できる」と感じていただけるような構図のアイデアを出しました。
そういった提案を続けた結果、パッケージや広告などに使用されるメインビジュアルの制作も任せてもらえることになりました。大量で複雑なデータを取り扱う困難な仕事だったので、もちろん自分ひとりの力だけでなく、先輩や開発スタッフの助言もありましたが、できあがったときはとても大きな達成感を味わうことができました。苦労して制作した3Dモデルのイラストが大きな駅貼りポスターとして使われていたり、パッケージが店頭に並んでいたりするのを見たときに、本当にお客様の目に届いていることを実感できてうれしかったですね。さらにSNSでさまざまな反響をいただいたことについても、とても印象に残っています。