Nintendo Switchの発売直後にサウンドスタッフとして入社した私は、『New スーパーマリオブラザーズ U デラックス』や『スプラトゥーン2 オクト・エキスパンション(追加コンテンツ)』の音作りに関わることになりました。ただ、それらは移植作であったり、追加コンテンツのゲームだったので、サウンドの下地があるなかで音をつけるという仕事でした。「自分でいちから音の設計をしたい」と思っていたところ、入社2年目に『Nintendo Labo Toy-Con 04: VR Kit(ブイアール キット)』のサウンドに関わることになりました。
このゲームの特徴は、段ボールでVRゴーグルを組み立て、それを覗くと視界の360度がゲームの世界になるVR(バーチャルリアリティ)が楽しめるようになるところにあります。段ボールで組み立てるToy-Conにはいろんな種類があり、私はそのなかのバズーカを使った「対戦!カバズーカ」というミニゲームのサウンドを担当することになりました。
「対戦! カバズーカ」は、カバにエサやりをするように、カバに向かって数種類のフルーツを選んで発射する2人用の対戦ゲームです。好物のフルーツであればカバが近寄ってきて、自分の陣地に引き込むことができ、最終的に陣地内に引き込めたカバの数の多さを競います。私がこのチームに参加したときは、サウンドはもちろんゲームの骨格しかできていない状態でしたので、開発の進捗にあわせてサウンドをつけていくことになったのです。
そこで私は、サウンドの力のかけどころはどこかということを知るために、何度もゲームをやりこみながら、時間をかけて細部をチェックし、サウンドを作るようにしました。カバの声には苦戦しました。絵に合わせて愛嬌のある声を目指し、はじめは自分の声を加工していれてみたのです。しかしチームメンバーからは「かわいくない」と言われてしまいました。カバの少し「抜けている」感じを出そうとしましたが、最初は照れもあり思い切った演技ができていなかったのです。そこで、抑揚を大きくつけてテンションの高い演技をしたり、音の加工方法も明るい音色になるように見直すことで最終的にイメージに合った音を作ることができました。でも、そのカバの声よりももっとハードルが高かったのが、VRゴーグルを覗いていない人にも音で伝えるということでした。
この2人用のミニゲームは、VRゴーグルを交代でつけて遊ぶようになっているので、待たされている人は画面を見ることができないのです。だから、何が起こっているのかがわからないんですね。そこで、遊んでいる人と待っている人の間に、コミュニケーションを誘発するようなサウンドをつけることにして、たとえばカバを捕ったことがわかるような音をつけました。また、相手の陣地のカバを奪うこともできるのですが、そのときは残念な感じに聞こえる音を鳴らすようにしました。カバを奪ったのですからうれしい音を鳴らすのが普通なのですが、あえて逆の音にすることで、VRゴーグルを覗いていない人がガッカリした気分になるようにしたんですね。
私はふだん、防音室の中でサウンドづくりをすることが多いのですが、今回はその部屋から出て、開発メンバーがプレイしている音を、VRゴーグルを覗いていない人の立場になりながら聞いて、ゲームでどんなことが起こっているのか、音でわかるかどうかをチェックするようにしました。そこで調整を繰り返し、最終的に完成した「対戦!カバズーカ」の音について、サウンドディレクターから合格点をもらうことができましたし、何よりひとつのゲームの音を自分で作りあげられたという点で、とても大きな自信になったのです。