サウンドスタッフのキャリア採用で入社した私は、いくつかのタイトルを経て、『スーパーマリオ オデッセイ』の曲づくりを担当することになりました。この開発チームでおもしろかったのは、ひとり1個ずつ遊びを試作するというイベントを行うなど、プランナー、デザイナー、プログラマーやサウンドなどの職種に関係なく、誰もが遊びを提案することができたところです。そして、おもしろいアイデアはゲームのなかにどんどん取り入れるという文化があったんですね。
『スーパーマリオ オデッセイ』には、ニューヨークに似た街がステージのひとつとして登場します。そこで私は、街中でバンドメンバーを集めると、ライブ会場で鳴らす曲のパートがどんどん増えていくというような遊びを提案してみたのです。するとおもしろい、という話になり、バンドマンを集めるんだったらフェスティバルをやろう、だったら主役のボーカルがいるんじゃないか、と話がどんどんふくらんでいったんですね。それでいつの間にか歌を作ることになって、しかも『スーパーマリオ オデッセイ』の看板になるような歌にして、英語の歌詞をつけることで、世界に向けてプロモーションにも使っていこう、というとても大きな話に発展していったのです。
私はこのタイトルのメインテーマ曲などを作っていたのですが、さらにマリオシリーズでは初となる歌を自分が作ることになり、それはとても大きなプレッシャーになりました。そこでどのような曲調がいいのか悩むことになるのですが、よくあるムービーシーンなどで流れる挿入歌ではなく、マリオを動かしながら遊びの中で聴く歌ですので、ジャンプしていて楽しいと感じられるものをと思い、ゲームをやりこみながら曲づくりをしたのです。
初めはいろんな可能性を試してみたくて、さまざまなジャンルの曲を作ってニューヨークに似た街のステージを遊びながら流してみたのですが、どれもなかなかしっくりきませんでした。そこでストレートに街のイメージに合わせたビッグバンドジャズ系の曲を作ってみたのですが、今度はぴったりはまりすぎて新鮮味が感じられなかったんですね。そこで、しっかり記憶に残るような曲にしようと、繰り返しフレーズのサビ部分を作ったり、ダンスっぽいニュアンスを入れてみたり、「♪オデッセイ」というコーラスを入れたりと、フックになる要素を加えていくと手ごたえが感じられるようになりました。その後も繰り返しゲームをプレイしながら幾度も調整した結果、『Jump Up, Super Star!』という曲が完成したのです。
歌詞は隣の席のサウンドデザイナーが原案を書いてくれて、それをチーム内で検討したうえで、NOA(Nintendo of America)に送って、英語に訳してもらいました。NOAスタッフにも実際に歌詞を歌ってもらい、曲データを送ってもらって何度も相談や調整を重ねました。この曲が初めて公開されたのは、ゲームが発売される前のトレーラー(予告映像)だったのですが、その直後にNOAの担当者から「この曲に対しての反響は圧倒的にポジティブで、曲をどこかで買えないのかといったコメントも届いているよ」というメールが届いたのです。英語の歌を作って世界に向けて、という最初の目標が達成できたようで、すごくうれしかったですね。
私が初めてゲームを買ってもらったのは、小学1年生のとき、ファミコンの『スーパーマリオブラザーズ』でした。つまり『マリオ』は自分のゲーム人生の原点なんです。それだけに、『スーパーマリオ オデッセイ』の曲づくりに参加できたことは、とても光栄でしたし、小さかった私の身体に染みこんだ“マリオ感”のようなものも、今回の曲づくりにはとても役立ったように思っています。