もともと私は製品技術部で、組み立てられた製品が正常に動作するかを確認するための、検査器の設計の仕事に携わっていました。そこから、2017年の春にハードウェア開発部に異動になり、しばらくしてNintendo Switch Liteの基板・回路設計の仕事に関わることになりました。Nintendo Switch Liteの基板には、ゲーム機の頭脳にあたるSoC(システム・オン・ア・チップ)やメモリー、それに電源IC、センサーやオーディオアンプなどいろいろな部品が載っています。各部品に詳しいそれぞれの担当者が作りだした回路ブロックを集め、それを基板に落とし込んでいくことが私の役割です。
私のまわりには、SoCに詳しい人、メモリーに詳しい人など、基板に載せる部品の各分野に詳しい人たちがいて、それぞれが作りだした回路ブロックが私のところに集まり、それを基板に落とし込んでいきます。基板設計という仕事には、最適なハードウェアにするために試行錯誤を繰り返しながら、最終的な製品として作り込んでいくおもしろさがあるんですね。
いろんな分野の詳しい人たちと仕事をすることで、自分自身が刺激を受けることも多く、とても楽しいのですが、一方で悩ましいこともあります。というのも、それぞれの担当者から別々の要望を出されることで、あちらを立てれば、こちらは立たずという状況が生まれるのです。全ての機能を満足いく形で実現するにはどうすればよいかをそれぞれの専門担当者と一緒に考え、最適と思える設計をして、試作して実際に確認し、だめならまたやり直す。それを繰り返しながら、それぞれの要求をどうにか実現することが求められるのです。知識と技術を結集させ、最終的な製品として作り込んでいくのが基板設計の仕事の責任とやりがいだと感じています。
Nintendo Switch Liteの基板設計をしていくなかで、私が最も手強いと感じた仕事は、EMC(Electro Magnetic Compatibility)の性能向上です。EMCとは、製品が電磁波を出したり、他の製品から電磁波を受け取ったときに誤動作しないことを目的に定められているもので、それをクリアして認証をとらなければ、世界各国で販売することができません。
そこで私は、本社開発棟とは別の場所にある電波暗室に通うことになりました。電波暗室とは、外からの電磁波は届かず、部屋の外にも電磁波は出ていかないように作られた特別な部屋なのですが、私はそこに試作品を持ち込んでは、電磁波の測定をするといったテストを繰り返しました。
開発の途中で設計が変更されることは頻繁に起こるのですが、ひとつの部品を変えるだけで必ずEMCを評価する必要があります。よくない数値が出たときは、何に問題があるのかを、図面を見たり、電磁界シミュレーションしたり、部品を載せ替えてテストすることを繰り返して、電波暗室に何日も通いながら、最終的にはEMCの認証試験をパスすることができたのです。
基板設計の仕事は、お客様に見えるものではありませんが、お客様の手元で、どのように扱われるかを強く意識しながら設計をするように心がけていました。ただ単に規格や基準をクリアするだけでなく、現実の世界でお客様がどのように扱われるかをイメージして作ることも求められます。そのようにお客様の手元のことを考えながらものづくりをするということも、この会社で働く魅力のひとつだと考えています。