Nintendo Switch Liteは、より気軽に持ち運べるように開発された携帯専用のゲーム機です。先に発売されているNintendo Switchと比べて、「小さく」「軽く」ということが求められるこの携帯専用機の開発プロジェクトで、私は筐体(きょうたい)設計を担当することになりました。筐体設計とは、プロダクトデザイナーが制作した意匠に基づき、さまざまな機構部品や電子部品をゲーム機本体の中に収めるように成立させる仕事ですが、ただ単純に収めれば良いというわけではありません。
例えばゲーム機の重要な要素であるボタン類の配置や押し心地については実際に触れる試作品を作ってデザイナーやゲームソフト制作者などとディスカッションしたり、EMC(Electro Magnetic Compatibility)評価で問題が生じた場合は電子技術担当とディスカッションし筐体の観点で対策案の提案を行ったりし、製品として最適な形となるよう粘り強く設計を進めていく仕事です。
※EMC…製品から放出された電波が他の機器に影響を与えないことを定めた基準
Nintendo Switch Liteの開発では、まず画面サイズを決めることからスタートしました。そこで数種類のディスプレイを準備して検討したのですが、「小さく」するという目標があるとはいえ、あまりに小さくしすぎると、ゲーム画面の文字が読みづらくなったり、絵柄が識別しにくくなったり、ゲーム体験を損ねるのです。さらに、画面が見づらくなるだけでなく製品のサイズが小さくなることで、バッテリーも小さくなり、プレイできる時間が短くなってしまうんですね。ですから、「小さく」「軽く」という目標は、「画面サイズ」「バッテリー持続時間」というトレードオフ関係の課題と向き合うことになり、多様なお客様の遊ばれ方などを想定し最適なゲーム体験を生み出すための解決策が求められたのです。
数種類の画面サイズを試した結果、5.5インチのディスプレイを採用することになりました。Nintendo Switchの画面サイズは6.2インチでしたが、快適に遊べるようにするには、このサイズが最適ということになったんですね。その後、バッテリーサイズも決定したあと、詳細な製品設計に入っていきました。製品設計の中でもさまざまな部品の共通化や小型・軽量化の検討を行い最終的にはNintendo Switchと比較して、体積で約2割「小さく」、重さで約3割「軽く」することができました。
このような話をすると、開発はスムーズに進んだように聞こえるかもしれませんが、試行錯誤したことは沢山ありました。
例をひとつだけ挙げますと、Nintendo Switch Liteの下部には、スピーカーの音を出す2つの音孔(おんこう)が開いています。この音孔の大きさや位置を決めるのにも、デザイナーと何度もやりとりを行いました。見た目はもちろん、制約のある中で音質をより良くすることもすごく大事です。そこで私は、どの位置に、どれくらいの大きさの孔が適切なのかを見極めるために、3Dプリンターでいくつも形状を作り、本社開発棟の無響室にこもって、限りある時間の中でどうすれば良い音響特性が得られるかという実験を繰り返し行いました。サウンドのスタッフとも協力しながら、そうした試行錯誤をした結果、任天堂の製品として満足できる音に仕上げることができました。
Nintendo Switch Liteとして最高のパフォーマンスを引き出すためには、ほかにも無線担当や製造部門、アフターサービス部門など、いろんな部署の担当者とさまざまな検討を重ねる必要がありました。
このように、筐体設計とはさまざまな人と関わり最終的な製品の形に自らの手で作り上げることができる仕事です。世界中のお客様に自身が設計担当した製品を手に取っていただけるのは何事にも代え難いやりがいであると感じています。