ゲームは、グラフィックやサウンド、ストーリー、操作性などさまざまな要素から成り立っています。ゲームを遊んでいると聞こえてくる環境音や効果音はその中のひとつですが、プレイヤーが状況を判断したり、ゲームの印象や記憶を形成したり、気持ち良くプレイするためには欠かせない要素となっています。
作曲や映像制作など、広く音を用いたものづくりに興味があった私は、ゲームの効果音を作るサウンドデザイナーとして任天堂に入社しました。『ピクミン4』では、サウンドデザイン全般のコンセプト立案や、他のスタッフが制作した音が本作のサウンドコンセプトに沿っているかを監修するサウンドデザインリードを務めました。
『ピクミン4』は、危険な原生生物が多く生息する謎の惑星に降り立った主人公が、そこで出会ったふしぎな生き物「ピクミン」の力を借りて探索するアクションゲームです。今作は過去シリーズよりもカメラ視点が大きく動かせるようになり、小さなピクミンから見える世界をプレイヤーが実感できるようになりました。グラフィックに限らず、サウンドにおいてもピクミンや主人公の小ささを表現したいという意向があり、効果音においてもその小さい目線を想像させるような工夫や、微細な表現が求められました。
開発序盤はこの「ピクミンの小ささ(サイズ感)の表現」を詰めていき、小さな物が落ちたような音を使って試作を進めましたが、そこで課題にぶつかりました。例えば、土の壁を壊すシーンがあるのですが、普通に小さな土の塊を壊した音を鳴らすだけだと遊んだときの手応えが軽く、触っていても気持ちの良いものではありません。かといって無理に手応えを出そうとすれば、主人公やピクミンが人くらいの大きさに感じられたり、音によっては、ちぐはぐな表現になったりします。このように、「小ささの表現」と「手応えの良さ」のどちらを立てたらよいか、頭を悩ませました。『ピクミン4』に限らず、任天堂のゲームは触って気持ち良い感覚を大切にしています。初めての場所を冒険するのなら、しっかりと地面を踏みしめていく感じがほしい。サイズ感の表現だけを先に考えず、まずは触って気持ち良いことを優先し、そのうえでサイズ感を出す方法を考える。周りのメンバーからアドバイスをもらいながら、そうした制作の方針を固めていきました。
それからは自分の身の周りを観察して、そこから聞こえてくる音を意識するようになりました。例えば、机のすぐ側や少し離れたところを叩いたときの音と、耳を近づけたときの音では、響き方がまったく異なります。今作は主人公にカメラを近づけると、耳を近づけたときに聞こえてくるような音が鳴るようにしました。また、いろいろと試した結果、主人公の足音に人間の足音を少し交ぜたほうが、歩いている実感につながりやすいことがわかりました。実際の足音というのは、地面に接した瞬間とその後の地面を少し擦るという具合に、とても短い音の組み合わせによって成り立っています。前半部分は人の足音を使い、後半部分は指で砂利をつぶしたような音を組み合わせることで、歩く手応えとミクロな要素が耳に響くというサイズ感を両立させることができました。他にも、アルミホイルや段ボールの上を歩くときなどは、その素材の中でポンと足音が響いているような感触が返ってくるように、音を取り入れたりしています。
音づくりをするうえで意識しているのは、どうしてそういう音にしたのか、なぜそこを頑張らなければならないのかなどの理由を、言葉で説明できるようにすることです。音づくりにおいては感覚ももちろん大事ですが、聴く人によって捉え方も違いますので、経緯を含めて丁寧に、かつ論理的に説明することができれば、他のサウンドスタッフも納得しやすいと思います。また、音を表現するための工夫は日常生活の中に多く潜んでいて、身近な音に対していかにアンテナをはりながら観察できるかが重要です。私の場合、幼少期に昆虫が好きだったこともあり、「小さな生き物の視点で音がどう聞こえているのか?」という表現について、開発の最後まで熱意をもって追求できました。また、周囲の人のノウハウに触れることも仕事をするうえで大切です。表現することが難しい音だった場合でも、さまざまな人の意見を聴いて、より深く考え抜くことで自分の行き詰まっていた原因がわかったり、新たなアイデアが生まれたり、バランスの取れた着地点が見つけられたりします。任天堂にはいろいろな強みや考え方、趣味の人がいて、そうした人たちと話すことで自分の視野が広がっていきます。自分で手掛けたタイトルが多くの人の手に届き、反応をいただけることが、制作のモチベーションや自信にもつながりました。