私はもともと、アニメやマンガ、ゲームが大好きだということもあって、シミュレーションRPGの『ファイアーエムブレム』(以下『FE』)シリーズの大ファンだったんです。このタイトルはインテリジェントシステムズさんと共同で開発しているのですが、私が任天堂に入社したあとに配属されたのが、まさに『FE』シリーズを担当しているグループだったのです。
ラッキーだと思った私は「『FE』の開発に参加させてください」と頼んだのです。ところが、上司からはきっぱりと却下されてしまったんです。当時はすごく悔しい思いをしましたが、あれから10年たったいまでは、その真意がわかります。若かった自分はファンだというだけで突っ走ってしまい、たぶん冷静な判断ができなかったと思いますから。
そのあと、いろんなタイトルに関わることになるのですが、ゲームづくりの現場にいること自体、幸せに感じていました。その間、3本の『FE』シリーズの新作が発売され、自分としては『FE』を客観的に見ることのできた、意味のある期間になったのかなと思っています。
チャンスは待つものですね。ずっと片思いの存在だった『FE』に、ついに関われるときがやってきたのです。ニンテンドー3DSの『ファイアーエムブレム 覚醒』です。ところがシリーズのセールスが減少してきていましたので、上司からは「このままだと『FE』シリーズは、これが最後だぞ」と念を押されました。自分にとって、最初の『FE』が最後の『FE』になるかもしれない。もう背水の陣で作るしかありません。でも、落ち込むことはありませんでした。逆に、どうせ最後になるのなら、自分がお金を払ってでも遊びたいものに絶対しようという、とてもポジティブな気持ちになれたのです。
企画段階で迷走した時期があったものの、最終的に『ファイアーエムブレム 覚醒』を開発するにあたって、2つのテーマを掲げました。ひとつはシリーズの集大成に。もうひとつは見た目の変化です。キャラクターデザインの方向性を変更し、ロゴもこれまでのイメージとは一新しました。
そうやって作り上げた『ファイアーエムブレム 覚醒』は、多くのお客様に楽しんでいただくことができ、海外ではシリーズ最高のセールスを記録。その3年後には続編の『ファイアーエムブレムif』をリリースすることができました。
任天堂のゲームづくりで大切なのは、お客様に喜んでいただくことです。でも、それと同時に「自分がお金を払ってでも遊びたくなるものを提案すること」もすごく大事だと思っています。そのことを改めて確認させてくれた『ファイアーエムブレム 覚醒』は、私自身をも“覚醒”させてくれたタイトルだと思っています。