私は、芸術系の大学で油絵を専攻したのちに大学院に進み、美術解剖学という分野で、主に人体や動物の身体構造について学びました。そのときに得られた知識と技術は、ゲーム会社でのキャラクター制作にも応用できると考え、3DCGモデリングの仕事に携わることになりました。
そして入社2年目に関わったのが、スペインの開発会社と共同で開発された、『メトロイド ドレッド』というタイトルです。キャラクターデザインは主にスペインの開発会社で行われていました。パッケージや広告で使用するイラストを制作するために、開発会社からゲーム中のデータやスケッチを受け取り、細部までブラッシュアップした3DCGを作ることになりました。なぜ細部まで作りこんだ3DCGが必要なのかというと、リアリティを向上させた3DCGを元にして作られる広報用イラストが、任天堂ホームページやパッケージ、ゲームメディアをはじめとするさまざまなメディア、駅貼り広告といった特大サイズの媒体などで使われることがあるからです。そのため、どんなに大きく引き伸ばしても鑑賞にたえうるような高精密なクオリティの3DCGに作り直す必要がありました。
私が任された3DCGモデルは、主人公のサムスの武器と鳥人族という種族のボス、そして、本作の特色の一つである、サムスを執拗に追い詰めるロボットのE.M.M.I.(エミー)です。今作はリアルテイストであることが特色なので、社内のシリーズ開発者だけでなく、開発会社ともすり合わせをした結果、細部まで説得力のある造形が必要だと考えました。なかでもE.M.M.I.はロボットのキャラクターなので、細かい部分にこそメカの特性を表現できると考え、細部まで作り込んでいこうと考えました。ただ、ゲームモデルで省略されていた部分に、E.M.M.I.のキャラクターの印象を崩さないように、実在感のあるディテールを加えていくのが難しく、どこまで作り込むべきなのか、当初は考えをまとめることができませんでした。
そこで、さまざまな工業製品を観察したり、さらにはキャラクターの機械的な体がどのような形で構成されているのかを分析し、ときには設計図をイチから描き直したりすることもありました。最終的にはイラスト担当者やゲームの開発担当者とも相談し、デザインに関する私の解釈と開発担当者の認識に齟齬がないかを確認することで、必要な作業を明確にしていきました。さまざまなアプローチで模索しながらの作業となりましたが、そのキャラクターを表現するのにふさわしい手法を用いてモデリングしていくことが大切なのだと実感しました。
この仕事は、まるでバトンリレーのように進みます。まず、開発会社からキャラクターのデータを受け取り、制作意図を汲み取りながら3DCGモデラーである私が細部を磨き、そのモデルをイラスト担当者がポージングやライティングを調整しつつ、背景なども加えて、最終的にお客様の目に届きます。
ただ今回は3DCGを完成させ、バトンをイラスト担当者に渡して、それで終わりではありませんでした。サムスとE.M.M.I.のamiiboを作ることになり、私はその監修にも関わることになったのです。そのため、その2体を並べたときに、対峙している様子が映えるようなポージングにこだわり、お客様が両方揃えた時に喜んでいただけることも意識しながら作りました。表現するのは難しかったのですが、学生時代に学んだ人体に関する知識を活かし、躍動感がありながらも自然なポージングにすることができたと思っています。CGだけでなく、実際に形のあるものに仕上げる工程に関わることができて、とてもうれしかったですし、こだわって作ったモデルをお客様に届けること、そして自分自身も、商品を手にする感動を味わうことができました。