私が所属する購買管理部では、ゲーム機のさまざまな部品を調達するために、数多くの取引先とやりとりしています。そこではもちろん価格の交渉が発生しますし、こちらが欲しい部品の数量を、希望する期日までにきちんと納品してくれる取引先を見極めることも重要な仕事になっています。そこで、私たちは「QCD」という言葉を常に意識しながら、業務を進めるようにしています。
「Q」とはクオリティ(品質)のことです。お客様の手元に届く商品の品質に、重大な問題が生じることのないように、クオリティの高い部品を、継続して製造できる取引先の見極めが必要になります。
「C」はコストのことで、部品のコストは購買業務において非常に重要な要素です。一つ一つの部品のコストを取引先との交渉により決定します。また、コスト交渉は、会社の利益に直結しますので、やりがいの大きな仕事でもあります。
「D」はデリバリー(納期)のことです。購買管理部は生産に必要な数量の部品を調達するという重大な責務を担っています。ゲーム機は、年末の商戦期に販売台数が大きく増えやすいという特徴があります。また、ゲームソフトの発売時期によっても、販売台数は変化していきます。このように、一年の中で生産量が大きく変動しますので、変動に合わせてゲーム機を生産できるように、タイムリーな部品調達が必要となります。
2021年10月8日に発売されたNintendo Switch 有機ELモデルに搭載されている部品を調達することは、非常に難易度の高い交渉となりました。というのも、有機ELモデルを生産するために欠かすことのできない部品を、高品質で、かつ大量に製造できるのは世界でも限られた取引先しかなかったからです。しかも、その取引先とはこれまで取引を行ったことがなかったので、取引条件に双方合意する必要がありました。もし交渉がうまくいかなければ、新製品の生産に影響を与えかねません。一方で、任天堂が大事にしているQCDの考え方は譲ることができない内容です。新規取引先との取引開始をミッションに掲げ、私は先方との交渉に臨むことになりました。
その交渉で意識したのは、粘り強く、ゼロベースで丁寧に説明することでした。ゲームビジネスとは何か、そもそも任天堂とはどんな会社なのか、ということを説明することからはじめました。さらに、新規の取引先ということで、会社対会社の関係を構築することも重要なテーマでした。そのためには、まずは担当者間で腹を割って話せるような関係になることが大事だと考え、課題に一つ一つ向き合って解消していき、相手に私のことを信頼してもらえるように努めました。そのようにコミュニケーションを重ねるうちに、取引先の担当者は任天堂の良き理解者になってくださり、「この取引を是非とも成立させよう」と熱心に対応していただける関係性を構築することができました。
任天堂は、ゲーム専用機や周辺機器等の製品については自社で生産工場を持たない「ファブレス型」の生産体制を取っています。ゲーム機を製造するためには、数多くの取引先から、さまざまな部品を提供していただく必要があります。そのため取引先の皆さんに任天堂の良き理解者となって、協力していただけるような関係づくりがとても大事になります。このような関係づくりも、まずは現場の担当者から始まりますので、購買の担当者の責任は大きいですが、とてもやりがいのある仕事だと感じています。