場の雰囲気も翻訳する場の雰囲気も翻訳する

仕事を通じて知識を吸収する

2020年に世界で同時発売された『レゴ®スーパーマリオ』は、デンマークに本社を置くレゴ社と共同で開発された商品です。お馴染みのレゴ®ブロックを組み立てて、「スーパーマリオ」の世界を楽しめるだけでなく、液晶ディスプレイの付いたレゴ マリオの表情が豊かに変化したり、内蔵のスピーカーによって、さまざまな音声やBGMなどを聴いたりできるなど、視覚的にも聴覚的にも楽しめる玩具です。任天堂に入社後、私が通訳コーディネートとして合流したのがこのプロジェクトで、開発はすでに中盤を迎えていました。

私は、長く海外に住んでいたため、英語で会話することはできましたが、本格的に通訳の勉強をしたことはありませんでした。そこで配属後は、通訳の仕事に慣れることからスタートすると同時に、それまでの開発の流れと製品に関する勉強をはじめました。とくに技術用語については知らないことばかりで、わからないことがあれば逐一、先輩に聞くようにしました。また、この商品には、いろいろなマリオのキャラクターが出てきますので、日本語名称、英語名称もしっかり覚えるようにしました。

レゴ社とのミーティングがないときは、先方からのテキストや任天堂側が文書で伝えたいことを日本語・英語に翻訳する作業をしていたのですが、その仕事も、専門用語を覚えるのに役立ちました。

また、レゴ社とのミーティングに参加するスタッフは多岐にわたります。普段は私が所属するチームのメンバーだけでやり取りするのですが、マリオにふさわしい見た目や世界になるよう、デザインを監修するチームが参加することもあれば、電子玩具としての性能や安全性などの品質チェックのために、ハードウェアチームや、サウンドチームのスタッフが参加することもあり、そういった場も、新しい知識を吸収する機会になりました。

的確な翻訳でちょっとした達成感も

日本独特の文化など、翻訳するのに難しい言葉は少なくありませんが、擬音語もそのひとつです。

レゴ スーパーマリオでは「パワーアップ パック」という別売りの商品が数種類あったのですが、そのなかに帽子とズボンを取り替えるだけで「ハチマリオ」に変身できる商品があります。その試作品のチェックを、テレビ会議を通じて行うことになりました。「ハチマリオ」を手で持って浮かせると、「ブーン」と音が出るような仕掛けになっていたのですが、その羽音は本物の虫が飛んでいるような、リアルな印象でした。

任天堂のメンバーとしては、マリオの世界に合った抽象的な音を試していただきたいと考えており、それをお伝えするために「パタパタ」と口にしていました。それを聞いたレゴ社のスタッフたちは「パタパタって何?」という表情をされていたものですから、私は咄嗟に「PATA-PATA= the sound of wings flapping(羽ばたきを意味する音)」とチャット欄に書き込み、任天堂のメンバーが伝えたいことやその背景を英語でしっかり説明することで、レゴ社にもご理解いただくことができました。その後、パタパタ音も加えられて、任天堂のスタッフも納得の出来になったのです。

入社してから身につけてきた開発の流れや製品に関する知識が、「パタパタ」という言葉の意図を素早く理解し、分かりやすく伝えることに役立ったと感じています。

そもそも通訳の仕事とは、ライブ感のあるやりとりを、その場の雰囲気・文化の違いも含めていかにうまく訳すか、というところが勝負だと思っています。例えば、任天堂のスタッフが面白いことを言ったとき、言葉がわからなくても、先方には画面越しでその雰囲気が伝わり、「どんな面白いことを言ったんだろう?」と、翻訳を待っている人たちの期待感が伝わってくることがあります。そんなとき、的確な翻訳をすることで、先方に笑ってもらえたりすると、ちょっとした達成感を味わえます。これも、仕事の醍醐味の一つですね。

社員略歴

香田企画制作部/2019年入社
2019年「事務系」入社。
レゴ社の『レゴ®スーパーマリオ™』(2020年~)シリーズ、Nintendo Switch『Good Job!(グッジョブ)』(2020年)、Nintendo Switch『ベヨネッタ3』(2022年)を担当。
主に海外開発会社との連絡の通訳・翻訳やプロジェクトの開発サポートを行う。

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