岩田
今回のeショップにおける、もうひとつの大きな変化は、
みんなのニンテンドーチャンネルの機能が統合されることです。
具体的にはゲームのプロモーション系の機能や、
お客さんからゲームの評価を集める機能、
レビューの高いソフトを探す機能が追加されましたが、
レビュー評価がWiiの点数制から5つ星制に変わることについて、
いろんな議論があったんじゃないですか?
中谷
はい、かなりありました。
インターネットの世界では5つ星というのが、
お客さんの評価を集めるうえでもっとも標準的な視点なんです。
だから100点満点で点数をこまかくつけるよりも
5つ星評価のほうが親しみやすいだろうと考えました。
一方で、いままでの評価方式を変えることに抵抗される方もいて、
各リージョンで別の評価方式をとろうかと
意見が割れそうになったこともありました。
岩田
それぞれの国で、そんなに意見が違うんですか。
中谷
はい。じつはいまでも若干、意見のくい違いはあります。
たとえば「星1つ」は、評価がすごく悪いのか、
そこそこいいのか、という評価の基準で割れたりしているんです。
最終的には、任天堂の評価システムを
世界統一で示す方向にまとまりそうなので、
開発者側も胸をなでおろしていますが・・・。
岩田
日米欧三局で異なる意見の調整が大変だったんですね。
また、日米欧ではそれぞれ税金の扱いが違うといった、
まるで悪夢のようなことが山ほどあるんですよね。
中谷
いや、お金関係のことは・・・本当に大変なんです(苦笑)。
今回、ポイント制からキャッシュ制に変更になったことで、
プリペイドカードに各国の通貨単位が入ったり、
商品購入時にレシートに金額が記載されたりする関係で
いままで以上に扱う通貨が一気に増えたんです。
とくにヨーロッパの通貨がものすごく増えて、
はじめて聞く通貨単位もたくさん出てきました。
たとえば北欧などで使うクローネ(※3)だけでも
ノルウェー・クローネ、デンマーク・クローネ、
ちょっと発音が違いますがスウェーデン・クローナ、
それにチェコ・コルナ・・・と、
親戚のような名前がいくつも出てきました。
岩田
え? そんなにあるんですか?
中谷
はい。クローネは“王冠”という意味で、
ヨーロッパのお金の単位としてはポピュラーな名前のようで、
“何とかクローネ”という通貨単位がたくさんあるんです。
岩田
へぇ~、そうなんですね。
中谷
そういうこまかいことが本当にいろいろあって、
どうしてこんなにお金のことばかり
考える毎日がつづくんだろう、と・・・。
じつはそれがいまでもつづいている状態なんです。
岩田
eショップの対応国は何カ国くらいになったんですか?
中谷
25カ国でのスタートになる予定です。
岩田
しかも、ひとつの国の中でも税率が変わることがありますしね。
中谷
そうです。
そのあたりはアメリカのサーバーチームがつくっています。
ほかにも各国の財務の方や経理の方や法律の方など、
このプロジェクトはとにかく
各国に関係者が多いので、ひとつのことを決めるのに
ものすごく時間がかかってしまうんです。
いま、もっとも苦しんでいるのはアメリカの税率ですね。
アメリカは州・市・郡まで特定して、はじめて税率が決まります。
郵便番号が6万通りくらいあって、
普通は郵便番号がわかれば、それで税率が決まるんですが、
中には郵便番号だけでは税率が決まらない地域もあるんです。
岩田
郵便番号で決まらないんですか?
中谷
はい、決まらないんです。
ちょっとこまかい話なんですが、いいですか?(笑)
アメリカには、同じ郵便番号なのに
州をまたいでいる地域があるみたいなんです。
どうやら郵便番号と州の境目が
一緒に決まったわけではないようでして・・・。
そういう地域は郵便番号だけで税率が決まらないため
その番号を入力したあと
「税率を決めるため、あなたの住所はどちらか選んでください」
といった選択肢も必要になるんです。
こういった各国のこまかい対応をずっとしています。
岩田
ああ、そうなんですね。
ところで今回は、画面の切りかえを速くすることも
当初からの目標でしたよね。
DSiショップのときは“ブラウザーベース”といって、
ブラウザーに読み込ませる情報をサーバーでつくって
それを画面上で構築して画面を切りかえる方法でしたので、
画面遷移のスピードが軽快ではありませんでした。
今回、画面切りかえを速くするために
どんな工夫をしたんですか?
中谷
“みんなのニンテンドーチャンネル”の方法と同じように
最初に、ある程度表示されるであろう
データベースをつくって先にまとめて読み込むという方法です。
岩田
ネットワークのやりとりでは、パラパラ取りにいくよりも、
まとめてガサッとデータを取ってきたほうが速いんですよね。
中谷
はい。あとはクライアント側のプログラマーが、
とにかくデータをなるべく節約するよう、
非常にこだわりを持ってやってくれています。
岩田
そのケチケチ精神の積み重ねが、
画面遷移のスピードにつながるんですね。
中谷
そうです。
こうしたいろいろなこまかくて地味な努力を
積み重ねています。
岩田
eショップがつながっているバージョンの試作品を
わたしがはじめて見たときに、
「これ、本当につながっているんですか?」と
思わず聞きましたからね。
それほどサーバーアクセスを意識しなかったんです。
まるでダミーのデータのようにスムーズに動いていました。
中谷
スピードの面では、
当初の目標は達成できたんじゃないかと思っています。
ただ・・・おそらく、岩田さんが最後に見られたものよりも
いまはいくつかの内部的な処理が追加されましたので
少し遅くなってきてはいると思いますので・・・
ちょっと、ドキドキしています。