1. スタジアムで起こるすべてを表現したい
岩田
今日はKONAMI(※1)のゲームソフト全体を統括され、
また、『ウイニングイレブン』シリーズ(※2)の生みの親で、
エグゼクティブプロデューサーをつとめられている
榎本さんにお越しいただきました。
ニンテンドー3DSの『ウイイレ』最新作、
『ウイニングイレブン 3DSoccer』(※3)の発売を控え、
つくり手としてのお話も含めて
さまざまなお話をお訊きしたいと思っています。
今日はご足労いただき、ありがとうございます。
榎本
よろしくお願いします。
岩田
榎本さんは1958年生まれだそうですが、
わたしは1959年生まれなので、ほとんど同世代ですね。
おそらく、わたしたちの体験には多くの共通点があると思うんです。
われわれはビデオゲームの黎明期を経験した世代で、
過去25年間、ビデオゲームがどのように
変化してきたのかを見てきました。
榎本
はい。
岩田
当時、ビデオゲームのつくり方が確立されていなかったので、
わたしたちの世代にはゲーム制作の師匠がいませんでした。
だから、なんでも自分で考えて、やりながら身につけていく、
というものづくりのスタート地点においても、
きっと共通の体験があるように感じています。
榎本
そうですね。ものづくりが確立されていないころは
どれだけ、ものをつくって壊すかをくり返し、
自分のイメージの思いどおりになるまで何回やりつづけるかで、
やりたいことを達成できるかが決まっていたように思うんです。
いまみたいにツールがそろっていて、リアルタイムで
つくったものが絵になることがありませんでしたから。
岩田
逆にいまのゲームづくりは、
つくったデータをすぐにソフトに反映するためにツールを整備して、
いかに無駄な人手を介さずにデータを組み込んで、
より多くの試行錯誤をするかを工夫してつくりますよね。
それは、われわれの世代がデータひとつ入れ替えるにも
人手を介さないと何もできなかったので、
自動化するにはどうするかを考えてきた歴史の結果ですよね。
ところで、榎本さんは、もともとサウンドを担当しておられたそうですね?
榎本
そうです。『ウイイレ』のサウンドを担当していました。
1994年ごろ、サッカーに詳しかったこともあって、
そのままゲーム全体の制作部長になって、いまに至ります。
どっぷり『ウイイレ』で来ているというところですね。
岩田
今日お訊きしたいテーマのひとつは、
『ウイイレ』はなぜ『ウイイレ』になったのかということなんです。
いま、榎本さんは「サッカーに詳しかったから・・・」と
すごくさらっとおっしゃいましたけど、
わたしは『ウイイレ』が登場して
サッカーゲームのなかで大きな位置を占めるブランドに成長する過程で、
明らかにサッカーゲームそのものが、大きく変化した気がするんですね。
そこにはどんなことが起こり、どんなことを乗りこえて、
いまの『ウイイレ』シリーズのブランドの確立につながったのか、
というところに興味があるんです。
榎本
『ウイイレ』プロデューサーの高塚(※4)が言うには
「サッカーゲームの攻撃と守備は格闘ゲームに似ている」と。
「要するにボールを取りあうか、殴りあうかの違いだ」と言うんです。
岩田
それはすごく面白いですね。
わたしは、サッカーゲームと格闘ゲームを
関連づけて考えたことがありませんでしたが、
サッカーを格闘技に見立てると、攻撃と守備の読みあいは、
確かに格闘ゲームと同じ構造になりますね。
相手がこう攻めてきたら、こう蹴るぞ、という・・・。
榎本
はい。そのバランスをとるのが、彼はすごくうまかったんです。
格闘ゲームも同様に、攻めと守りのパターンだと思うんですけど。
岩田
確かにサッカーも格闘も、攻めと守りが一体ですよね。
大きなダメージを与えるものは逆に隙もできてしまう。
だからどう読みあい、駆け引きするかがポイントになるんですね。
榎本
はい。それともうひとつのポイントは
それまでのサッカーゲームは、構造上、
ボールと選手がくっついていたんです。
つまり、選手の近くにボールがくると
自然に選手の足元へピタッとくっつくんですね。
だから選手とボールをどうやって離すかがポイントでした。
岩田
では、はじめて選手とボールを離して、
攻守の駆け引きを深くつくり込んだものが
『ウイイレ』だったということですか?
榎本
はい、それがスタートでした。
岩田
なるほど。でも、そういう変化のあとも
『ウイイレ』は絶えず進化している印象があります。
毎年、厚みと深さが変わっていく秘密はどこにあるんでしょうか?
榎本
まず、とにかく制作スタッフがあらゆるサッカーの試合、
とくにヨーロッパの試合を何度も見るんです。
サッカー自体がどういうプレーで構成されているかを理解しないと、
ゲームに落とし込めないんですね。
われわれの最終的な到着地点は、本物のサッカーと同じことを、
テレビゲームを通じて体験することであり、
スタジアムで起きるありとあらゆることを
ゲームのなかで表現することが、最終目的地なんです。
岩田
つまり、どんなシーンでも本物のサッカーに起こることなら、
どうすれば『ウイイレ』に入れられるかを考えつづけている、
ということなんですね。
それは本当にみなさんがサッカー好きでないと
つづけられないですね。
榎本
そうですね。短い期間ですが、制作の準備段階で徹底的に、
再現したい試合のビデオを見ます。
岩田
でも、どこまでが事前にプレイヤーが考えて練習してきたことで、
どこからが瞬時の判断で奇跡のように成立したことなのか、
わからないことがスポーツにはさまざまありますよね。
サッカーはとくに偶発性から発生する局面の変化が激しいですから。
たとえば、ひとつのパスで試合の雰囲気が
ガラリと変わる様子をたくさん見ますよね。
榎本
はい。ただ、それが毎回起こるとゲームバランスを
崩してしまいますから、どのくらいの確率で、
どういうポイントで発生すべきなのかということが
攻めと守りのバランスだと思うんです。
たくさん起こると試合の点数が入りすぎてしまい、
AI(※5)の穴になってしまいますから。
岩田
うまくバランスをとらないと、サッカーとしての
リアリティがなくなってしまうんですね。
実際、つくり手のみなさんから見て、いまの『ウイイレ』では
やりたいことのどれくらいができているんですか?
榎本
いや・・・ぜんぜんできていないと思います。
岩田
ああ、『ウイイレ』はある意味、ライフワークそのものなんですね。
榎本
はい。本当に10何年やってきても、
本物のサッカーにはまだまだ届いていないと感じています。